２．　地球国家のモデルとしてのアメリカ


　　前節で述べた理念に基づいて地球国家の具体的イメージを頭に描こうとすると、そのモデルとしてもっとも参考になるのは、やはりアメリカ合衆国、つまりアメリカであろう。 その国家体制には地球国家が持つべき特質を数多く備えている。　それとともにアメリカは世界の数多くの主権国家の一つであるから、それだけで完結している地球国家とは異なる多くの特質も備えている。　ここではそれらの特質を順々に挙げてみよう。

Ⅰ　　地球国家のモデルとして相応しい点

１

　　まず、その多民族性が挙げられる。　アメリカはヨーロッパ系、ラテンアメリカ系、アフリカ系、アジア系の沢山の民族が入り交じった多民族国家である。　そして特に優位にある民族を持たないのがその最大の特色である。
　　それでもこれまでは白人、すなわちヨーロッパ系の優位は揺るぎないように見え、実際に大統領はすべて白人が占めていた。　しかし、2008年の大統領選挙によって始めて黒人すなわちアフリカ系を父にもち、白人すなわちヨーロッパ系を母にもつ混血のオバマ大統領が誕生した。　これは人種・民族間の差別の解消に一歩前進し、地球国家の理念に近づく重要は事象である。　ここで「混血」が選ばれたことの意義は特に大きく、地球が諸人種・諸民族の融和に進むに当たっての人種間、民族間にまたがる「族際結婚」の果たす大きな役割を示唆しているように思える。

２

　　そして一応は民主制が確立しており、言論、思想、信仰の自由が守られていることである。 　　民主的政治制度の効果として、選挙により大統領や国会議員選出に国民の意向が定期的に反映・更新されることの意義は大きい。　かくして今回、アメリカ国民は「アメリカの国益」の旗のもとで極端な対外政策を推し進めて破綻したブッシュ前大統領に代えて、新たに国際協調のもとで新しい世界構築を称えるオバマを大統領に選び、みずから国の過ちを正すことの出来る「大人」の国民であることを示した。 これは民主制の勝利と言えるであろう。

３

　　そして、これは民主制の確立と無関係ではないが、経済体制が自由を基調とする資本主義体制であることである。 同じ「自由」を基調とした資本主義体制といっても、アメリカ型の「競争社会」を前提とした「自由主義的資本主義」と、ヨーロッパ型の「連帯社会」を前提とした「社会的資本主義」とでは大きな差がある。　そして現在のアメリカでの社会格差の拡大をみれば、地球国家のモデルとして「自由主義的資本主義」が望ましいとは思えないが、それを考慮しつつ、アメリカをモデルに考えるのは有益である。

４

　　そして地方分権の受け皿としての州があり、しかもその州自体がそれぞれ特に優位な民族を持たない「多民族国家」的存在であることである。　そしてそれぞれの州がかなりの独自性をもつ「州法」を制定する自由を持ちつつ、基本的にはすべて共通した法律を持ち、全体が連邦法の下にあるという形になっている。　これは地球国家成立の暁に生まれる地方分権組織が従来の民族国家を超えた大きな単位であるべきことを考えると非常に有益なモデルを提供していることになる。


Ⅱ　地球国家のモデルにならない点

　　地球国家のモデルにならない点は、地球国家が「外部」をもたない閉じた存在であるのとは異なって、アメリカは主権国家の一つであり、「外部」である「外国」を持つ開いた存在であることである。　そのことからさまざまな問題が生まれる。

１

　　まず第一にで１主権国家のひとつに過ぎないアメリカにはアメリカの「国益」というものがあり、しばしばそれを過度に主張して混乱を招くことになる。 かくしてブッシュ大統領のもとでのアメリカは「国益第一」を称え、核拡散防止には熱心でも核兵器廃絶には消極的であり、地球温暖化対策の国際協力に背を向け、自国民を告訴しないように諸外国に圧力をかけて「国際刑事裁判所」の骨抜きを図ったりした。　その意味でオバマ大統領が生まれたことにより、地球規模で問題を捉えることが出来るようになりそうで、期待が持てる。

２

　　アメリカが閉じた存在でないことの効果は経済問題において著しい。　今回の世界的な経済危機においても、それはアメリカのサブプライム問題から始まり、それはアメリカが国家財政と国際収支の両面で赤字を垂れ流してつくった住宅バブルが原因である。　そしてその国際収支の赤字を増大できたのは諸外国がセッセと米国債を買ったりして資本を流し込んだ結果であり、閉じた存在であれば当然起こらない現象である。
　 それから国際企業、とくに投資ファンドなど国際金融企業の横暴は目に余り、当然 規制の対象にすべきであったが、アメリカはこれらがアメリカの国益に貢献するとして規制に消極的であった。　しかし、アメリカの態度うんぬんよりも、これら国際企業の横暴は本来、１国での規制では解決せず、世界で統一的規制を講じなければ解決出来ない問題である。　それに今回の危機では国際通貨間の大きな為替変動が混乱に輪を掛けているが、これは世界単一通貨が実現していれば起こらなかった問題であり、アメリカ１国の手にあまる。
　　いずれにしても経済問題は地球を単一な存在として扱わなければ解決出来ない問題を多く含んでいる分野であり、アメリカといえども地球国家に対してあまり適切なモデルを提供するとは言えない。

続きへ進む

コーナートップへ戻る