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つぶやき日誌2025-04
これは2025年4月の「つぶやき日誌」 です。
つぶやき日誌 最新の版
表題リスト
２０２５年 ４月
４月３０日
☆ トランプ大統領就任から100日
今朝の朝日新聞２面に、「トランプ大統領就任 記者が見た100日」として、内政、外交、関税・通商の３分野についての解説が載っていて、いずれも面白く読んだ。 ここでは「内政」を取り上げる。
トランプは最近、SNSに『ようやく、政府を「ビジネスのように運営する」ことができる』と書き込んだ。 自らが米国の「最高経営責任者（CEO）」であるかのように国家経営をしたいという理想がにじみ出ている。 直感を信じて判断を下し、組織がそれを実行する・・・。 不動産業を運営してきたトランプにとって、大統領という仕事は面倒な手続きだらけに映るだろう。
たとえば三権分立。 この100日、連邦地裁からトランプの政策に何度も差し止め命令が出されてきた。 だがトランプ政権は、素直に従おうとしない。 「左翼の活動家判事」が、大統領の邪魔をするのは許されない、という理屈からだ。 たとえば官僚制度もそうだ。 選挙で選ばれたのは大統領であり、それに従わない官僚こそが『民主主義にとっての脅威だ』とスティーブン・ミラー大統領次席補佐官は断言した。
気にくわないものはないがしろにする振る舞いは権威主義的であり、「憲法上の危機」を招くと論じられる。 たとえば大統領選で勝とうとも、司法や議会と権力を分け合うのが、米国が重んじてきた民主主義の鉄則だ。 だがトランプ政権はこう考える。 官僚や裁判官、メディアといった「エリートたち」こそが民意を妨げており、排除されなければならない。
トランプやその追従者のこれらの言動は、本来の共和党員を含む米国民一般にとっても受け入れ難いもので、米国を含む世界にとって脅威である、と私は考える。
４月２９日
☆ 葬送のあり方
今朝の朝日新聞オピニオン面に、作家・高橋源一郎の寄稿「歩きながら、考える」が載っていて、面白く読んだ。
コンピューターで制御された都会の巨大納骨堂から、桜の花咲く郊外の樹木葬の丘へ。 作家の高橋源一郎が「死後」というテーマに向き合う思索の旅をした。 自身が経験した身近な人びとの死が、旅の出発点だった。 葬送のあり方という社会的な議論を広げていくために、寄稿を掲載する、というのが前文である。
東京都町田市にある樹木葬墓地、「エンディングセンター桜葬墓地」を世に出したNPOの理事長であり社会学者でもある井上冶代は、著書「墓を支える家族論」の中で、『庶民が今のような墓石を建てた墓を作るようになったのは江戸中期以降のことで、それまでは遺体遺棄葬が一般的であった』と記している。 「○○家」と刻まれた墓を多く見かけるようになったのは、実は明治民法が「家」を法制化以降に過ぎない。 日本人は遙か昔からずっと自然の中に葬られてきた。 だとするなら、私たちは元いた世界に戻りつつあるのかもしれない、と高橋はいう。
井上はこの墓地について記した記事の中で、「死者の人権」という言葉を使っている。 長い間「死後の担い手」は遺族だった。 けれども「独居」が多数になる時代に激増する「遺族を確保できない人びと」は、社会的支援が整備されないまま放置されている。 彼らは「人間らしく死ぬ権利」、即ち「死者の人権」が奪われたのだ。 「死者の人権」に冷たい社会は、同時に「生者の人権」にも冷たいのだが、と高橋はいう。
私は高橋のこの考えに多大の共感を覚える。
４月２８日
☆ 日本学術会議の組織改編法案
今朝の朝日新聞オピニオン面に、くらし科学医療部の竹野内崇宏による記者解説「学術会議 独立性は」が載っていて、面白く読んだ。 まとめは「日本学術会議の組織を改編しようとする政府の動きが、最終局面を迎えている / 会議の総会では法人化法案について、独立性へに懸念から修正を求める異例の決議 / 頼りにされるアカデミーに向けて、財政基盤やコミュニケーションの改善も必要だ」である。
「学者の国会」とも呼ばれる日本学術会議を、法人化する法案の国会審議が始まった。 2012年の任命拒否問題に端を発した政府側の一方的な組織改編が最終局面を迎える。 学術会議は土壇場で国会に法案修正を求める決議にこぎ着けた。
学術会議は科学者が戦争に動員され、言論が弾圧された反省から1949年に設置された。 現行の学術会議法は、前文で『わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献する』とうたい、政府から独立して職務を行なうと銘記した。 原子力の研究開発をめぐって「民主・自主・公開」の三原則を決議し、国の原子力基本法に採り入れられるなど、科学的助言を担ってきた。 ほかにも法に基づく「勧告権」では、政府方針と異なる意見や懸念も伝えてきた。
今回、政府は「国の特別な機関」である現行の学術会議を廃止し、来年10月に特殊法人に移行させる法案を、今年3月に国会に提出した。 この法案では、現行の学術会議法にあった前文はなくなり、「平和」も「独立」も記載されない。 また、業務などをチェックする「監事」２名を置き、活動を評価する「評価委員会」を新設。 これらは会員以外から首相が任命する。
これらのうち、私がもっとも懸念するのは、「評価委員会」の新設である。 この委員会は何を評価するのだろうか。 活動が政府の意向に沿っているか否かを「評価」するのだろうか。 そうとすると、これは学術会議の独立性の明確な否定である。
とにかく、この組織改編法案の成立は学術会議の本来のあるべき活動に有害無益である、と私は考える。
４月２７日
☆ 核禁条約に加盟賛成、が73%
今朝の朝日新聞は１面トップと３面に、朝日新聞社が戦後80年の節目に行なった全国世論調査（郵送）の結果に就いての解説を載せていて、面白く読んだ。 調査は全国の有権者から３千人を無作為に選び、２月下旬～４月上旬に郵送法で実施。 有効回答は1899、回収率は63％だった。 調査の詳報や質問と回答は５月３日付け朝刊に掲載するとのこと。
私が特に興味を持ったのは、核兵器の開発などを全面的に禁止する核兵器禁止条約に日本が加盟したしたほうがよいかどうかを尋ねると、「加盟するほうがよい」は73%に上り、「加盟しないほうがよい」22%を大きく上回った、ということである。 日本政府は、日本が米国の「核の傘」の下にいるからとて、過去２回の核禁条約加盟国会議にオブザーバーも送っていない。 この調査結果は、政府の対応に世論が必ずして納得していないことを示している、と記事はいう。
私自身は、「核の傘」の下にいても、少なくとも加盟国会議にオブザーバーは参加させるべきだとの立場だったが、一般世論はさらに進んでいる。 この調査結果を見た今は、可及的すみやかに「核の傘」から離脱して、核禁条約に加盟するのがよい、と私も考える。
４月２６日
☆ ポーランドの良心の見解
今朝の朝日新聞オピニオン面に、ポーランドのレフ・ワレサへのインタビュー記事「分断と連帯」が載っていて、面白く読んだ。 見出しは「時代に逆行する米 / ポピュリスト横行 / 民主主義への不信」である。
ワレサは1942年生まれ。 1980年に、まだ共産党政権下にあったポーランドで結成された自主管理労働組合「連帯」を率いて労働者の権利向上などを訴え、同国の民主化などを牽引した。 83年にノーベル平和賞を受賞。 90～95年にポーランド大統領を務めた。
世界はいつも分断されてきたし、20世紀後半までは力を行使するやり方で行なわれた。 しかし、20世紀終わりに世界で新しいコンセプトが現われた。 例えば欧州では、欧州連合(EU）のもとで国境が開かれ、統一通貨が導入された。 欧州は良い方向に進んでいる。
ワレサはウクライナに良心の呵責を感じているという。 彼は大統領時代、隣国のウクライナやベラルーシと一緒に北大西洋条約機構（NATO）に加盟することを目指していた。 その後、ポーランドはNATOに加盟したが、もし加盟していなかったらウクライナではなくポーランドがロシアと戦争をしていたかもしれない、という思いからである。
ロシアのウクライナ侵攻から３年が過ぎ、東欧諸国の重要性が増している。 「連帯」はあの時代にどう闘えばよいかを示した。 だが、今のやり方では勝てない。 もちろんロシアが撃ってくれば撃ち返さなければならないが、武力で負かすということではない。 必要なのは、ロシアの政治体制を変革する手助けをすることである。 それを可能にする態度をとる。 それが本当の意味の勝利になる、とワレサはいう。
このワレサの見解に、私は全面的に賛同する。
４月２５日
☆ AIの希望と脅威
今朝の朝日新聞オピニオン面に、イスラエルの歴史家、ユヴァル･ノア・ハラリへのインタビュー記事「AIは民主主義の脅威？」が載っていて、面白く読んだ。 ハラリは1976年生まれ、ヘブライ大学教授。 邦訳書に「サピエンス全史」「ホモ・デウス」などがある。
「物語」を通した大規模な協力によって人類は覇者になった、とかって喝破したハラリは、新著で一転、人類の未来について危機感を示す。 世界中で不信と憎悪が渦巻き、民主主義が崩れていく現状を、人工頭脳（AI）という技術が悪化させる可能性があるという。
歴史家ハラルの特質は、その時間スケールの大きなことにある。 彼は著書「サピエンス全史」においては、現生人類ホモ・サピエンスの誕生から現在に至る歴史を物語った。 今回のインタビューにおいて、彼は18世紀の産業革命を例にあげる。 それが成されたとき、人類は産業社会を構築するためのモデルを持っていなかった。 産業革命を経た産業は、製造するための原材料や販路の市場を必要とした。 だからそれらを提供する大帝国が必要と考え、帝国主義が生まれた。 しかし、数十年の試行錯誤の末、帝国がなくても豊かな産業社会を築くことができることに気づいた。
彼の新著「NEXUS 情報の人類史」では情報の重要性いついて考察する。 広範囲の人びとの対話に基づく民主主義を可能にしたのも、新聞、ラジオ・テレビ、インターネットなどの新しい情報技術である。 だが近年、この人間同士の対話にAI などのエイジェンシーが大量に入り込み、影響を与えている。 「偽の人間」によって民主主義の土台が崩されている。
だからAIの開発は遅らせよう、とハラリは提言する。 この提言について、そんなものかな、と私は考える。
４月２４日
☆ 「党首討論」の形
今朝の朝日新聞は左肩部に、石破茂首相と野党党首による今国会初めての党首討論が23日、開かれたことを報じ、３面にその解説を載せ、社説でも取り上げていた。 今回の討論には、自民党の石破茂党首と、立憲民主党の野田佳彦代表、日本維新の会の前原誠司共同代表、国民民主党の玉木雄一郎代表が出席した。
日本の国会では開会中に原則として毎週１回、衆参両院の国家基本政策委員会の合同審査会として、首相（与党党首）と野党各党首による討論が行なわれることになっている。 党首討論については、予算委員会と同様にテレビ・ラジオ中継およびネット配信が行なわれる。 しかし、党首討論の時間が短い（全体で45分）という批判や、制度を生かしきれていないのではないかという声もある。 また、本会議や予算委員会などに首相が出席した週は党首討論を開かないことを与野党間で合意しており、党首討論が行われないことも多い。
私はこの「党首討論」の形にいささか疑問を持っている。 そもそも、党首討論は与党党首と野党党首との間で行なわれることになっているが、日本維新の会と国民民主党は与党でも野党でもない「ゆ党」的存在である。 であるから、立憲民主党と日本維新の党との、また国民民主党との間の党首討論も十分意味がある。 党首討論は与党と野党の一つの党の党首間と、2つの野党同士の党首の間の討論を国会開会中に順次行なうことにしたらどうであろうか、と私は考える。
４月２３日
☆ 映画「ノー・アザー・ランド」
今朝の朝日新聞オピニオン面に、パレスチナ人ジャーナリストのバーゼル・アドラーへのインタビュー記事「共存を語れるのは誰か」が載っていて、面白く読んだ。 見出しは「パレスチナ自治区 / 破壊、占領、追放 / 映画が伝えた日常」である。
パレスチナ自治区ガザへのイスラエルの攻撃が続く中、もう一つのパレスチナ自治区、ヨルダン川西岸の村を記録した映画「ノー・アザー･ランド」が、米アカデミー賞を受賞した。 この映画は、パレスチナ人２人とイスラエル人２人が制作し、監督を務めた作品である。 そしてバーゼルは映画の舞台となったマサーフェル・ヤッタの住民である。
ジャーナリストであるバーゼルは、イスラエル軍やその土地を奪ってそこに住む入植者たちにより、日常的に攻撃にさらされているパレスチナ人の日常を外部の人びとに伝える手段として、映画制作に行き着いた。 共同監督である、ユダヤ人のユヴァル・アブラハームも事実を記録するジャーナリストである。 バーゼルとユヴァルはイスラエルによるパレスチナ占領に批判的な姿勢も同じくする。
パレスチナ問題の解決には、イスラエルと将来的に独立したパレスチナ国家が平和共存する「２国家解決」以外にはない、というのは世界の通念である。 だがバーゼルは、今回の受賞後『「２国家解決」は可能か』とよく質問されるが、この質問自体が嫌いだという。 現在進行形で続いているイスラエルの犯罪を止める、 国際社会がしかるべき制裁や処罰を与える。 話はそこからしか始められない、とバーゼルはいう。
現在、イスラエルのネタニヤフ首相は閣内の強硬派に配慮して、「２国家解決」に反対を唱える。 これを変えさせられるのは米国の姿勢であるが、トランプ大統領の再選によってそれも難しくなっている。 それでもこの映画のアカデミー賞受賞は、パレスチナに味方する国際世論の盛り上がりに資する好ニュースだ、と私は考える。
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４月２２日
☆ フランシス教皇を悼む
今朝の朝日新聞は１面左肩部に、ローマ・カトリック教会のフランシス教皇（88）が21 日死去した、とローマ教皇庁（バチカン）が発表したことを伝え、その他の多くの紙面に関連記事を載せていて、興味を持って読んだ。
同教皇の本名はホルベ・マリオ・ベルゴリオ。 1936年12月17日に南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスでイタリア移民の両親のもとに生まれた。 首都近郊の神学校で学び、イエズス会に加入。 神学校教師を務めた後、1998年にブエノスアイレス大主教に就任した。 そして2013年、南米出身者として初めての教皇に選ばれた。
教皇は宗教の違いを超え、生命を広く尊ぶ姿勢で知られた。 イスラム世界との関係構築も進め、2019年には歴代ローマ教皇として初めてイスラム教発祥の地であるアラビア半島を訪れた。 国際社会では平和外交を主導する役割を自らに課していた。 世界に広がる分断の風潮を懸念し、「壁」ではなく「橋」を築こうと訴え、パレスチナ自治区、イラクなどを訪れ、東アジアでは北朝鮮との分断が続く韓国を最初に訪れた。 米国とキューバの国交正常化にあたっては陰の仲介者となった。
前任のベネディクト16世と対照的なリベラルのイメージから、カトリック教会での女性や性的少数者の権利向上に向けた改革を期待する声も背負った。 2023年12月には、司祭が同性カップルに「祝福」を与える事も認めた。
享年88歳という年齢の高さに何の不足はないものの、それでももっと長生きして、世界平和と人倫向上に貢献し続けてほしかった、と私は考える。
４月２１日
☆ AIを活用した認知症相談
今夕の朝日新聞夕刊に「認知症の悩み「先輩」AIが聞く」との見出し記事が載っていて、面白く読んだ。
『認知症と診断された。 日常生活はどうなるの』『親の認知症がひどくなったら、どうしよう』・・・。 こうした不安をやわらげようと、京都府京丹後市と特定非営利活動法人「イシュープラスデザイン」（東京）が、人工知能（AI）を活用した認知症相談システムの運用を４月から始めた。 システムは「認知症世界の歩き方 旅のせんぱいAI」。 イシュープラスデザインが開発した。 市のホームページ（HP）から利用できる。
イシュープラスデザインの筧祐介代表は、約100人の認知症の人からの聞き取りを元に、「認知症世界の歩き方」を2021年に出版した。 認知症の人の立場から、周囲がどのように見えているのか、なぜ周りの人が解釈できない行動になってしまうのか。 分かりやすいたとえをあげながら、家族や介護を担う人がどのように対応すればよいか説明している。 本で活用したデータを「旅のせんぱいAI」に学ばせた。
「京丹後市 認知症AI」で検索し、京丹後市のHPにある「旅のせんぱいA.I. クリックしてはじめる」から入ると、旅人姿の「認知症世界の先輩」が画面に現われる。 『あなたの疑問や不安を聞かせてください』とのメッセージ出て、画面下部にあるスペースに入力すると会話が進んでいく。 イシュープラスデザインの担当者によると、「認知症世界の先輩」は質問者の気持ちにまず共感し、対応策を示す。
「認知症世界の先輩」には学習機能があるため、相談事例が増えるほど内容は充実していくという点を、私は特に面白く思った。
４月２０日
☆ 米国の大学の「まさかの」戦い
今朝の朝日新聞「日曜に想う」欄に、宮地ゆう・GLOBE編集長が「アメリカの大学 まさかの戦い」を書いていて、面白く読んだ。
４月上旬、アメリカ東海岸の有名大学で、学長や学部長らが集まる会合が開かれた。 『トランプ政権に対応するため、権威主義国家を知る東欧などの大学から助言をもらうことになった。 ハンガリーなど複数の国の研究機関と連携し、意見交換を始めている』。 会議に出席した知人は、苦笑しながら言った。 『まさか権威主義国家から学ぶ時代が来るとはね』。
トランプ政権は、反ユダヤ主義を放置したなどとして、コロンビア大学やハーバード大学などを皮切りに、補助金を次々と打ち切った。 他にも、ユダヤ系学生の保護義務違反とされた大学は60校にのぼり、リベラルな大学方針への調査対象は約50校ある。 大学側は連携してたたかう姿勢を見せているが、政権による統制は激しさを増している。 言論や学問の自由が守られていると思われてきた米国のいまの姿だ、と宮地はいう。
宮地もかって「何でも見てやろう」を書いた小田実と同様に、フルブライト奨学金を得て米国に渡った。 米国の大学や大学院に身をおいて感じたのは、この国の力の源泉は、世界中から集まる若い学生たち抜きでは語れないということだ。 あらゆる政治体制の国から、多様な価値観を持った若者が、自分の国では得られない何かを求めてやってくる。 そこから時代の思想が生まれ、最先端の研究が始まり、産業がおきる。 エリート批判や国の衰退が言われても、米国は依然として、世界中の留学生を最も多く引きつけている。 だが、３月末に発表された英ネイチャー誌の調査では、米国にいる研究者の75%が『国を離れることを考えている』と回答したという。
トランプは「米国第一」を唱えるが、実際にやっていることは、世界中の若者の心を引きつけてやまない「米国らしさ」をぶちこわすことだ、と私は考える。
４月１９日
☆ 「完全版」アリス
今朝の朝日新聞読書面「売れてる本」欄に、「芥川龍之介・菊池寛共訳 完全版アリス物語 ルイス･キャロル<著>」の、河野真太郎・専修大学教授（英文学）による書評が載っていて面白く読んだ。
ルイス･キャロルの「不思議の国のアリス」を叢書「小学生全集」の１冊として芥川龍之介が訳したのが「アリス物語」である。 だが芥川が訳を完成させることなく死んだので、菊池が完成させて共訳という体裁で1927年11月に出版された。 そして澤西祐典が、そこにあった訳の欠落や誤訳を補いつつ、充実した訳注を施したのがこの「完全版」だとのこと。
翻訳、抄訳、アニメ版なども含む翻案などが星の数ほども存在する一方で、ナンセンスに接近さえもする言語遊戯のために翻訳が困難である「不思議の国のアリス」であるが、この１冊に私たちが惹きつけられるのは、もちろん、その訳者ゆえである、と河野はいう。 日本語独特の、そして芥川一流のオノマトペが効果的に試用されたり、本書は確かに「芥川・菊池訳で読む楽しみ」にあふれている。
翻訳とは単なる言語の間の移しかえではなく、書き手の間でのコミュニケーションであり対話である。 それにこの場合はキャロルと芥川の間の対話だけではなく、訳補・注釈を付けた澤西も含めた三者の対話である。 実際、澤西の注は愛を込めて、時には少し踏み込んだ形で、芥川の事情や心情を想像して軽妙洒脱のコメントをつける。 本書の読み所は、この訳注での対話にある。 ぜひとも本文と注を一緒に読んでいただきたい、と河野はいう。 是非とも読んでみたい、と私は考える。
４月１８日
☆ 一人の女性物理教師のやり方
今朝の朝日新聞「ひと」欄に、『学校で浮いてしまう子どもたちと自宅の塾で向き合う 成見知恵（53）』が紹介されていて、面白く読んだ。 まず、全文を引用する。
実験を劇的に演出する物理教諭と出会い、大学は物理学科へ。 でも周囲の「物理愛」に圧倒されて研究の道には進まなかった｡ 子どもがまだ幼い時、非常勤で中学校の物理講師をやらないかと誘われ、夫に背中を押されて引き受けた。
教室で生徒たちは、どしどし話しかけると思えば、急に黙る。 人間って面白いと思った。 女子校や帰国女子主体の学校など計4校で教え、今も続ける。
コロナ禍のとき、オンライン授業で課題をなかなか出さない生徒に文書作成の手順を説明する動画を送ったら、すぐにレポートが出てきた。 『特性に偏りはどの子にもあり、少しの個別の後押しで力を引き出せると気づきました』。
偏りに起因する困りごとは、思春期に増えるとされる。 学校で居心地の悪さを感じている子のために３年前、東京の自宅で「なるみ塾」を始めた。 目標は「気質にあう進路」を見つけること。 今は６人が在籍。 英語や数学などを個別に教えるほか、他の子と一緒に学ぶ時間を設ける。 SNSの書き方や人付き合い、年頃の女性には化粧の仕方も教える。 『我が子のかすかな変化を感じ取って欲しい』と、保護者とも蜜に痴話する。
子ども抱える様々な困難を知りたいと、特別養護学校の教員免許も取った。 原点は「特性」に対する愛情。 『人を「普通」「普通じゃない」と区別しない社会がいいなと思います』と成見はいう。
その真っ当な姿勢に、私は彼女を尊敬する。
４月１７日
☆ 言葉「正義」の意味
今朝の朝日新聞オピニオン面に、哲学者、朱喜哲へのインタビュー記事「「正義」を乗り越えこなす」が載っていて、面白く読んだ。 見出しは「横行する屁理屈 / 正しさ苦手な日本 / 倫理の実装が必要」である。
朱は1986年大阪府生まれ。 大阪大学で招聘准教授として哲学を講じ、大手広告会社に社員として務めている。 著書に「人類の会話のための哲学」がある。 現在は企業内哲学者として、データビジネスの倫理的問題や、倫理をどう社会に実装するかを考える仕事をしている。
法律に反していなくても企業倫理が問われて炎上するケースが多々あり。 新しい技術がどんどん出てきて、法整備が負いつかない分野もある。 どうすべきか判断するための言葉遣いを整備するのも、企業内哲学者の役割のひとつである。
「善」と「正義」は別物である。 なにを「善」と考えるかは人それぞれで、まさに気持ちの問題である。 ゆえに時に対立するから、それぞれの利害を調整し、バランスをとりながら、なんとか一緒に社会を営んでいくための合意点を見出さなければならない。 万人が合意に達しうる状態で実現するのが「正義」である。
ちなみに「公正」とは、私たちが「正義」について合意するために、場に求められる条件であり、各自に課せられる責務である。 社会という「みんなで取り組む命がけの挑戦」に参画するためには遵守し、具体的なふるまいとして示されなければならない。 内心の問題ではまったくない。
こんな時代に言葉を紡いでもむなしいという声もよく聞くが、そんなはずはない。 言葉を操ることは自動車の運転と似て、練習次第でうまくなるし、うまくなった方がより安全に楽しく遠くに行ける。 言葉をあきらめてはいけない。 どんな言葉を使うかが「わたし」を形作り、どんな言葉が使われているかが「社会」のあり方を決定づけるのだから、と朱はいう。
私はこの記事を読んで、言葉や倫理を哲学者が論じる意味が初めて解ったような気がした。
４月１６日
☆ トランプがもたらすもの
今朝の朝日新聞オピニオン面「コラムニストの眼」欄に、デイビッド・ブルックスが「米国の「偉大さ」 関税が停滞させる冒険心」を載せていて、面白く読んだ。
ブルックスはまず、トランプの関税政策が米国人の精神と魂に与えるダメージについて説明したい、と始める。 トランプは壁を作っている。 彼の貿易政策が妨げているのは商品の流れだけでない。 アイデアや人との交流、技術、そして友情といったものの流れまで妨げてしまっている。 彼の移民政策も同様だ。 トランプは、国際的な交流に深く関わっている機関やコミニュティーを攻撃している。 対象になっているのは、科学研究者や大学、外交団、海外援助機関、それに北大西洋条約機構（NATO）のような国際的な同盟関係である。
グローバルな交流は社会に活気をもたらす。 かっての米国は文明の十字路の国として、行動的な場所を求める意欲的な移民を引きつけてきた。 自由貿易も擁護した。 英国の植民地主義と米国の国際主義によって、英語は世界言語にもっとも近い存在になった。 米国には世界的なつながりを持つ多様な国民がおり、２つの大洋を超えた同盟関係があり、そして多くの留学生をかかえる一流大学がある。
だが、2001年の９・11同時多発テロ以降、21世紀の指導者たちが人びとの恐怖をあおり続けている。 このような非情な世界の雰囲気は、人びとの交流を妨げるだけでなく、米国の最大の特徴だった冒険心さえも抑え込んでしまう。 トランプは、関税の詳細を発表した４月２日の水曜日を「解放の日」と呼んだが、、「停滞の日」の方が相応しいかもかもしれない。
もし米国が今も米国であるなら、これらの関税はトランプ政権の転換点になるだろう。 関税がもたらす無意味な経済的苦痛に人びとは憤慨し、関税が象徴する卑怯な価値観に反感を抱くだろう、とブルックスはいう。 そうあって欲しい、と私は考える。
４月１５日
☆ 特定生殖補助医療法案
今朝の朝日新聞オピニオン面に耕論「生殖補助医療 なぜ線引き」として、３人の人の考論が載っていて、面白く読んだ。
第三者提供の卵子や精子と使う生殖補助医療のルールを定める「特定生殖補助医療法案」が今国会に提出された。 医療の対象を「法律婚夫婦」に限定する。 線引きの理由とは、それが何をもたらすのか、が耕論の前文である。
村木真紀は同性パートナーと一緒に子育てをしている。 村木たちの子どもは、友人から精子提供を受け、パートナーが出産した。 生殖補助医療を介してやっと生まれた子である。 子ども自身も、パートナーが母親、村木は「母親のパートナー」、提供者の男性が父親だと理解している。 法案は「法律婚」以外の人たちへの生殖補助医療の提供や、営利目的での精子･卵子の取引を「違法」とし、罰則まで付けようとしている。 国が「違法な行為によって生まれた子」というスティグマ（負の烙印）を負わせるものだ、と村木は主張する。 確かに、この法案にはそういう側面があり、「法律婚」という線引きを削除し、対象を広げて再提出して成立させるのがよい、と私は考える。
なお。他のお二方の考論にも、考えさせる面白い論点がいくつもあった。
４月１４日
☆ 「負動産専門」の不動産会社
今朝の朝日新聞３面「ひと」欄に、「「負動産専門」の不動産会社を始めた弁護士」の紹介が載っていて、面白く読んだ。 「ふ動産」を重ねた言葉遊びも面白い。
利用されず、管理費や税金がかかるばかりの「負動産」でも、一般の不動産業者が扱わないだけで、自分が有効活用できる人につなげばいい。 そう思い立ち、弁護士・荒井達也（37）は、専門の不動産会社の事業を今年１月に前橋市で始めた。
きっかけは就職した法律事務所で、風力発電や太陽光発電の候補地の調査を担ったこと。 地方では相続の登記をしないことが珍しくなく、相続人を探す日々。 地権者が1200人にもなる土地もあった。 相続しても使わない土地を国に返上できる「国家帰属」の制度作りにも携わった。 制度が始まると思わぬ引き受けてが現われた。 例えば、土地の境界線の確認を頼んだ隣の所有者から『譲ってほしい』。 負動産がビジネスになった。
強豪校の県立福井商で野球に打ち込むも、野球は高校までと決めていた。 『地方の乱開発に問題意識を持っていたので、法律や政治を学びたかった』。 東京の私大法学部に進み、法律を学ぶちに、奥深さを知り、今につながった。
『法律や不動産は専門用語が多い。 動画で学べるように』と、処分方法や体験インタビューはもっぱらユーチューブで発信し、SNSも活用する。
負動産を子や孫に残したくないと考える所有者は多い。 『事業はもうかる。 後続が出てくれば社会問題の解決にもつながる』と荒井はいう。 確かに何事であれ、確固たる問題意識を持ち、社会問題の解決につながるビジネスを編み出して世間に提示した荒井は、尊敬に値する人物だ、と私は考える。
４月１３日
☆ 普通選挙の現状の問題点
今朝の朝日新聞「日曜に想う」欄に、有田哲文記者が「普通選挙 100年たっても甘くない」を書いていて、面白く読んだ。
全ての成年男子が無条件平等に選挙権を持つ「普通選挙」が導入されたのは大正15年6月24日の府県・市町村の制度改正であり、9月3日に最初の普通選挙の浜松市議会選挙が実施された。 そして国会議員選挙での最初の普通選挙の実施は昭和2年2月20日の第16回総選挙である。 従って確かに、普通選挙は昭和とともに始まり、昭和100年の今年は普通選挙100年の年である。
普通選挙100年の間に、選挙権の行使を歪めるものはいくつもあった、と有田はいう。 曰く、票の買収、地域の有力者に強いられる投票、言論統制や立候補の制限。 それらは外部から来るものだが、今警戒すべきは、もしかしたら自らの「感情」かもしれない。 敵と味方に分け、敵への憎しみから投票する。 『みんなにたたかれて、かわいそう』と票を投じる。 流されないために必要なのは、論点や政策を知る努力だろう。 しかし、自分で調べたつもりのネット情報が、歪んでいることも多々ある。 誰かが意図的にゆがめていることもある、と有田はいう。
それに対し、私は今もっとも問題なのは、投票率の低さだと考える。 とにかく50％そこそこの投票率では、その結果が民意を表現しているとはとても言えない。 投票率の低さは、選挙民の期待ないし関心の低さの表れである。 理想を言えば90％、少なくとも70％の投票率がほしい、と私は考える。
４月１２日
☆ 極北の地に生きる一人の日本人
今朝の朝日新聞オピニオン面に、「グリーンランドの犬ぞり猟師」大島育雄（78）へのインタビュー記事「極北の地に生きる」が載っていて、面白く読んだ。 見出しは「先住民と半世紀 / 伝統の狩猟を継承 / この土地全てが庭」である。
大島は1947年、東京都東久留米市に生まれた。 日本大学山岳部で登山経験を積み、卒業翌年の72年からグリーンランドに定住。 現地女性と結婚し、１男４女をもうけた。 大島の住むシオラバルクは南極の昭和基地よりも高緯度にあり、一般住民の住む世界最北の村と言われる。 このインタビューは、これが最後かもしれないという帰国を機に、現地で取材したことのある記者2人が聞いたものである。
大島がグリーンランドを目指した始まりは、日大山岳部のOBとして遠征のためにシオラベルクに入った1972年だった。 大島は極地の未知の山を探検したくて、厳しい冬を越すにはどうしたらいいか、現地の人と同じ経験をしたいと考え、犬ぞりの使い方を人に教わり、言葉は子どもたちに習った。 そのまま村にとどまることは最初はまったく考えていなかったが、猟をして生きる生活がエキサイティングで、もう少し居ようと思った。 そしてあとはずるずると半世紀続いた。 自分が食うものは自分で捕る。 誰にも命令されず、自分でいいようにやれるから。
猟のために覚えなければならないことは沢山あって、50年はあっという間だった。 大島は、ホッキョクグマやセイウチ、アザラシ、カリブー、ジャコウウシなど何でも捕った。 季節ごとに、どこへ行けば何が捕れるのかがわかるようになるまでに10年以上かかった。 それからは何の制約もなく自由にどこへでも行けて、この土地すべてが自分の庭みたいに思えるようになった。
最後に大島は、どんなに大変なことでも過ぎてしまえば一時的なもので、楽しいことだけ胸に残る。 人生、何も決められず、ずるずると続けていたら50年以上経ったけど、本当に幸せな時間を過ごした。 犬ぞり猟もいずれなくなるだろうけど、良い時代を生きたと思う、という。 なるほど、そんなものかな、と私は考える。
４月１１日
☆ 国連委員会への拠出金除外要求
今朝の朝日新聞オピニオン面に、耕論「国連委拠出金除外の波紋」として、３人の識者の考論が載っていて、面白く読んだ。
記事によれば、国連の女性差別撤廃委員会が皇室典範の改正を勧告したことに抗議して、外務省が国連人権高等弁務官事務所への拠出金を当該委員会には使わないよう求めた、という。 おかしな話だと私は考える。 そもそも、国連の女性差別撤廃委員会の勧告には強制力はないから、日本政府はその内容に不快を感じたら、受け流しておけは済む話である。 それを仰々しく、外務省が『供出金を使わせないように求めた』と発表をするなど、何を寝ぼけているんだ、とも言いたくなる対応である。
とにかく、国連の一機関の勧告が気に入らないからと言って、当該機関に拠出金を使わせないように要求する行為は、世界の日本への評価を阻害し、日本の国益を損なうだけだ、と私は考える。
４月１０日
☆ 習近平の実像
今朝の朝日新聞オピニオン面に、鈴木隆・大東文化大学東洋研究所教授へのインタビュー記事「習近平氏 なぜ「強い」」が載っていて、面白く読んだ。 鈴木は中国政治研究者で、新著に「習近平研究 支配体制と指導者の実像」がある。
習近平が中国共産党･政府のトップに就いて12年余り。 １強体制を築き上げ、ライバルも後継者も見当たらない。 企業経営に例えると、習は１億人の社員（党員）を抱え、百年の歴史を持つ老舗の社長のような存在である。 国内14億人、そして世界の政治・経済・軍事という「マーケット」で競争している。 彼はサラリーマンの雇われ社長ではなく、自分も創業者たちに連なる系譜という自覚が強く、血統に対する強い確信と責任を持っている。 だから、共産党の支配体制を動揺させたり解体したりしうる政策は選択肢にない。 民主化などは論外である。 それに彼には文革期の培われた強い「権力への意思」がある。 習の思想は、自分と党の権力を維持するために内外の敵と闘う、闘争のイデオロギーとも言える。
中国では今、若者や中年の一部は競争を避け、住宅など消費も疎んじ、結婚も出産もあきらめていて、「寝そべり族」とも呼ばれている。 習らは中国のモーレツ世代で、文革後、苦労して頑張って経済･軍事大国にし、これから世界制覇を目指そうとする時である。 寝そべっていないで立ち上がって、一生懸命に働けと思っているだろう。 こうした高齢の指導者の感性が若者の変化についていけてない。
中国の支配体制の安定は、2つの次元で考えなくてはいけない。 体制内のエリートの動向、もう一つは支配体制と社会の関係である。 大多数の国民が欲するのは仕事と社会保証。 習がやりたいのは米国と対抗するために科学技術や国営企業を強くすること。 この乖離は支配体制と社会との関係の大きな不安定要因だ、と鈴木はいう。 なるほど、そんなものかな、と私は考える。
４月 ９日
☆ 福井洞窟＠佐世保市
今夕の朝日新聞夕刊３面<れきしあるき>に、長崎県佐世保市の「福井洞窟.」の話が載っていて、面白く読んだ。 見出しは「旧石器・縄文の両時代が交錯する福井洞窟＠長崎」「人類の暮らしぶり 変遷のぞき見」である。
洞窟遺跡にあまりなじみはないけれど、先史時代には意外と多いらしい。 『実際、方角次第で日当たりがよければ湿気も少なく、雨風もしのげる。 洞窟は思いのほか快適だったかもしれませんね』と、「洞窟遺跡日本一のまち」を標榜する佐世保市文化財課の柳田祐三はいう。 ちなみに佐世保市内には30カ所を超す洞窟遺跡がある。
敗戦の混乱からようやく抜け出そうとしていたころ、郷土史家が拾った土器や石器が考古学者の目にとまった。 日本人の起源に関心が集まっていた風潮にのり、日本考古学会や地元自治体は1960年代、３度にわたって発掘を実施｡ その結果、２つの時代の移行を連続的に物語ることが判明した。 そして、福井洞窟は2024年、旧石器遺跡で初の国特別史跡に指定された。
福井洞窟はJR佐世保駅から車で30分ほどの山あいにある。 開口16メートル余、高さ4.7メートル、奥行き5.5メートル。 その足元は深さ6メートルの岩盤まで、1万9千年前から１万年前に至る人類の歴史が重層する。
福井遺跡は旧石器時代の最後を飾る細石刃と縄文文化の幕開けを告げる最初期の土器が同じ地層に共存し、両時代がオーバーラップする例として知られる。 縄文研究を牽引してきた小林達雄・國學院大學教授も『旧石器時代の出口から縄文時代の入り口、土器の出現までが教科書さながらに見られる』と絶賛する。
このような知的好奇心の対象の存在は、人生を豊かにし、生き甲斐を感じさせるための、一つの重要な要素である、と私は考える。
４月 ８日
☆ 古人骨DNA解読と歴史研究
今朝の朝日新聞はオピニオン面に、人類学者の篠田謙一・国立科学博物館館長へのインタビュー記事「DNAで解く人類史」を載せていて、面白く読んだ。
古代に生きた人類の骨に残るDNAを解読できるようになり、ホモサピエンスがどのように世界に広がって定着していったか、解明が進んでいる。 人間の遺伝子は99.9%まで同じだが、残りの0.1%に多様性がある。 この違いが生まれる理由は、親から子へ遺伝的特徴が伝わるときに起きる突然変異である。 同じ変異がある遺伝子のグループは同じルーツを持つことが分かる。 DNAの変異を追うと、現代人との違いがどの時点で生じたのか、あ集団が別の集団から枝分かれした時期はいつか、などが分析できる。
画期的なのは、我々現代人には絶滅したネアンデルタール人のDNAが入っていることがわかったことである。 この業績でスパンテ・ペーポ博士が2022年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。 ちなみに日本人はネアンデルタール人のDNAを１～３%程度持っていることが判明している。
この辺から私は話が解らなくなった。 そもそも「ネアンデルタール人のDNA」とは何だろか。 エアンデルタール人固有のDNAで、通常のホモサピエンスにはないDNAだろうか。 そうとすれば、日本人がその数％を持っているという説明と矛盾する。 私はそれ以上考えるのを止めることにした。
とにかく、古人骨ゲノム分析から、本州の日本人の遺伝子の10％～20％が縄文人由来で、残りが大陸から来た弥生人由来であり、縄文人比率が九州、東北で高く、四国、近畿で低いことまで分かっているという。 当面はそのような研究結果を面白がって眺めることで満足しよう、と私は考える。
４月 ７日
☆ コンビニ営業のあり方
今朝の朝日新聞は１面トップに、コンビニ最大手セブンイレブンの大分県内の店舗で店長を務めていた男性（当時38）が2022年に自殺し、６カ月間で１日の休日がない連続勤務を原因とした労働災害と認定されていたことがわかった、と報じ、２面<時時刻刻>で詳しい情報と解説を載せていて、関心を持って読んだ。
「年中無休・24時間営業」というコンビニの労働環境の厳しさは、かねて指摘されてきた。 『休みなくて、長時間があたりまえ』『シフトをうめるためにいくら働いても、自分がきついだけ』『コンビニの店長なんてただいいように使われているだけ』。 2022年７月、その店長はこうした遺書を残して自殺した。
この男性は、福岡県内の公務員専門学校を卒業後、大分県内地元に戻って公務員試験を受けたが、就職氷河期で希望がかなわず、地元のセブンでアルバイトを始めた。 11年後の15年、オープンした別のセブン店舗で、店長として雇われた。 ここではオーナーが常駐し、従業員の労務や顧客とのトラブル対応は主にオーナー側が行なっていた。 19年、このオーナーが新しい店舗を開き、、男性は店長として移った。 こちらの店舗にはオーナーは常駐せず、従業員のシフト作成や労務管理も担ったほか、顧客対応のための急な出勤も多くなった。 『この店の店長を任された頃から、アルバイトの急な欠勤の穴埋めんどの業務が増え、休みも取れなくなった』と男性の妻は振り返る。
私はコンビニの年中無休・24時間営業はサービス過剰だと考えている。 セブンイレブンの名前からして、それは午前7時から午後11時までの営業を標榜したものだろう。 営業時間をその標榜通りにし、深夜営業は止めた方がよい、と私は考える。
４月 ６日
☆ いやいやえん
昨５日朝の朝日新聞読書面「森絵都が選ぶ 子どもの本 クラシック』欄に、中川李枝子<作>「いやいやえん」があって、面白く読んだ。
『小さい頃、最もよく読んだ童話は何か』と問われたら、私は迷わず「いやいやえん」を挙げる。 1960年代に幼少期を送った者の実感として、当時この本を知らない子どもがいたらモグリだ、というくらい人気の１冊だった』と森はいう。 確かにその頃、私も本屋でこの本を手にして強い共感を覚え、知子に買ってきた本だった。 知子に買ってきた本では「小さなお家」とともに、もっともお気に入りの１冊である。
森の紹介によると、 童話の舞台はチューリップ保育園で、主人公の「しげる」はかなりやんちゃ者である。 かなりアクの強い子どものようだが、私が読んだ記憶では、大分自分勝手でわがままではあるが、それほど「アクが強い」とは感じなかったように思う。 とにかく、私にとって極めて懐かしい本である。
４月 ５日
☆ 「教養」へのあこがれ
今朝の朝日新聞オピニオン面に耕論「教養はどこへ」として３人の識者の論考が載っていて、面白く読んだ。
前文は『いつのまにか「あの本は読んでおかなきゃ」というせりふを聞かなくなった気がする。 戦前戦後を通じて人びとの憧れと気後れをかき立ててきた「教養」はどこへ行ったのか』である。
私は戦後に旧制高校を卒業した最後の学年であるが、旧制高校は確かに「教養の場」であった。 旧制の教育制度は小学校6年、中学校4年、高等学校３年、大学３年で成り立っていたが、このうち中学校までは基礎的な勉強の場で、大学は専門知識の勉強ないし研究の場であり、その間にはさまれた高校が「教養の場」であった。 旧制高校は文科と理科に分かれていたが、数学・物理・語学などの「実用」の勉学の場である理科の生徒でも、「三太郎の日記」くらいは読まなくてはいけない、というようは教養主義の空気があった。 私自身はその本を手にする機会に恵まれず、結局読まなかったが、そのような空気に推されて、ドストエフスキーの「死の家の記録」を駒場の一高の寮の屋上で読みふけった、懐かしい記憶がある。
戦後の新制東大でも、当初は4年のうちの前半２年間を「教養部」で過ごすようになっていたのはその名残であったのかもしれないが、やはり旧制高校３年間の「教養の場」の再現は無理だろう。 とにかく、『あの本ぐらいは読んでおかなきゃ』という空気が充満した「教養の場」がなくなったのは、残念なことだ、と私は考える。
４月 ４日
☆ トランプ関税
今朝の朝日新聞は１面トップに、トランプ米大統領が２日、新たな「相互関税」の発令を命じる大統領令に署名したことを報じ、2面に関連する情報の詳報を載せ、社説でも「トランプ関税と世界 歴史の教訓思い起こす時だ」の表題で論じていて、面白く読んだ。
トランプ関税では第一段階として５日、ほぼ全世界の国や地域に10%の関税をかける。 さらに９日には、米国への関税が高かったり、独自の規制など貿易を難しくする「非関税障壁」があると米政権が認定した約60カ国･地域に対して、より高い税率を適用する。 日本は24%、中国34％、欧州連合（EU）は20％となる。 トランプは２日の演説で、『長年、働き者の米国市民は他の国が豊かになっていくのを傍観することを強いられていたが、今度は我々が繁栄する番だ』と話した。
トランプはこの関税政策が自国産業の再生に役立つとするが、実際には米国民の負担増は避けられない。 輸入品のコストは上がり、インフレが再燃する恐れが強い。 報復を考慮すると成長率を押し下げるとの試算もあり、米国経済がマイナス成長率に転落する可能性も指摘される。 世界経済への打撃はさらに深刻である。 中国や欧州連合などは早々と報復措置を打ち出している。 貿易量の急減により世界景気が腰折れするリスクも高まる、と社説は指摘する。
トランプの今回の関税政策は、トランプの独善であり、良識の欠如をあらわすもの、と私は考える。
４月 ３日
☆ 同性婚訴訟での高裁判断
今朝の朝日新聞は２面<時時刻刻>に、「同性婚判断 委ねられた最高裁」の見出しの記事を載せていて、面白く読んだ。
同性婚を認めない民法と戸籍法の規定は，個人の尊厳を著しく損なう不合理なもので、法の下の平等に反する・・・。 「結婚の自由をすべての人に」と訴える同性婚訴訟は、５つの高裁が「違憲」判断でそろった。
裁判所は、国会がつくった法律が憲法に反していないかをチェックする権限を持つ。 国会の議論を経て決まった法律について、裁判所が違憲だと断じる例は限られるが、同性婚訴訟では５高裁の結論が「違憲」でそろう異例の展開にまった。
違憲間断の根拠となった条文は主に２つ。 １つは「法の下で平等」を定めた14条。 もう１つは婚姻と家族に関する法律は『個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない』とした24条２項である。 『婚姻は両性の合意のみに基づいて成立』との24条１項については、『憲法制定時は男女間を想定していただけで、同性婚を禁じる趣旨ではない』などと解釈。 憲法に書かれてなくても同性婚を認めるねきだ、とのメッセージを打ち出した。
この期に及んで、もはや私の言うべきことはない。 この上は一日も早く、同性婚が認められ日の来ることを、私は期待している。
４月 ２日
☆ 性暴力事件と世間の「嫌な感じ」
今朝の朝日新聞オピニオン面に、小説家の姫野カオルコへのインタビュー記事「世間に漂う「嫌な感じ」」が載っていて、面白く読んだ。 見出しは「性被害者をたたき / 大学名で人を測る / 見下し見下されて」である。
2016年に起きた東大生５人による他大学の女子学生への性暴力事件が、姫野の小説「彼女は頭が悪いから」の執筆のきっかけになっている。 姫野はまず、事件の報じ方が気になったという。 ヘンだなと思った。 どのニュースも『東大生が』と何回もいう。 そして、ネット上では事件に関する人びとの関心も『東大生狙いの女のくせに』とか『東大生の夢を奪った』とか、「東大」にあった。
最近は被害者へのパッシングに対抗する声も上がるようになった。 加害者側の『同意があったと思った』という主張に対して、怒ったり呆れたりする声が上がるようになった。 一方で加害者への怒りの声を上げた人たちへのパッシングも目立つようになった。 まさに社会にただよう「嫌な感じ」である。
『自分に誇りを持ち、自分にはないものを持っている人がいたら、尊敬して接する』ということを理想とする教育を受けた記憶があるが、今は変わってきているのだろうか。 大学名で人を見下したり、性被害者がパッシングされたりというのは社会の変容の一つの表れかもしれない、と姫野はいう。
たしかに世間は時と共に変容する。 80有余年前のかっての太平洋戦争中は、私のいた小学校で「いじめ」はまったくなかった。 いま学校での「いじめ」が深刻な問題になっているのに比べて、良い世間であったと言える。 だがその頃にはまたそれなりに悪いことも沢山あった。 いつの時代でも、それら「悪いこと」に地道に対処する方法を探し求めていくしかないのだろう、と私は考える。
４月 １日
☆ エイプリルフール
今朝の朝日新聞の「天声人語」を面白く読んだ。 ここに全文を引用する。
『日本にウソツキクラブという組織があるらしい。 いや、かってあったと言うべきだろうか。 1990年代のころ、心理学者の河合隼雄氏が会長を務め、毎年４月１日、大々的に例会を開いていたそうだ。 参加者はウソ比べをして、一等には賞金も出たという▼もっとも、そんな例会の案内状を真に受け、ノコノコ出かけていくような人は「会員の資格なし」として除名される。 「したがって私もせっかくの大会に一度も出席したことがない」とご本人が書いている（『あなたが子どもだったころ』）▼いったいどこまでが本当の話かと悩ませてしまったら、申し訳ない。 つまらぬウソだと思う方は電話で尋ねてみるのも一興かもしれない。 なんと世界のどこからでも、800番にかけると、クラブにつながるらしいから▼「マジメは休み休みにして頂きたい」。 河合氏の広く知られた一言を懐かしく思い出す。 生真面目がすぎ、四角四面の日本社会だと揶揄できたのははるか彼方か。 いまの世界に満ちているのは、誰かを傷つける酷いウソばかりである▼右をみれば、「人権侵害の認定を受けておりません」と開き直る前衆院議員がいる。 左をみれば、部下の告発を「ウソ八百」と断じ、事実を認定されても責任をとらない知事がいる。 海の向こうには「もう一つの真実」を語る大統領もお元気そうだ。 冗談も休み休みにならないものか▼念のために言えば、この文章にウソはない。 そう、きょうは、エープリルフールである。』
この文章に書いてあることもすべてウソかもしれない、と私は考える。