つぶやき日誌2022-10
これは2022年10月の「つぶやき日誌」 です。
つぶやき日誌 最新の版
表題リスト
２０２２年１０月
１０月３１日
☆ 総合国家安全保障
今夕の朝日新聞夕刊「Anothert Note」欄に、佐藤武嗣・編集委員が「時代を先取りした「総合安保」 宏池会の先達の広い視野」を書いていて、面白く読んだ。
44年前、自民党の派閥、宏池会のトップだった大平正芳首相は、日本の安全保障政策を方向付けようと「総合安全保障」構想を唱えた。 国家の安全保障は軍事力のみでは達成できず、外交や経済など「非軍事」も総動員して国の平和と安定を図ろうという考えである。
大平はこの構想を具現化しようと、民間人や若手・中堅官僚も参加する有識者会議「総合安全保障研究グループ」を立ち上げた。 メンバーは実に多彩で、大学教授や財界人のほか、官僚も外務・防衛だけでなく、大蔵、自治、通産、農水、運輸といった省庁横断で、建築家の黒川紀章ら、大平と親交のあった著名人も加え、様々な角度から「総合安保」の姿を議論した。 残念ながら、有識者会議の報告書「総合安全保証戦略」が完成したのは大平が急死した直後で、日本の外交・安保政策のレールに乗ることはなかった。
当時、大平の秘書官を務めた、大平の女婿、森田一・元運輸相によると、大平はよく『すべて物事は、部分ではなく全体で考えなくてはだめだ』と言っていた。 『狭義の安全保障だけではなく、経済力も含めた安全保障を考えることが大事だ』と考えていた。 これは安保に限らず、物事を広く深く見るという、大平の世界観、人生観とも言える、と森田はいう。
大平に比べると、同じ宏池会の流れを汲むといっても、今の岸田首相には自分の理念・信念がまったくないようなのは、如何にも残念なことである。
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１０月３０日
☆ イラン騒乱の現状
先日のつぶやきで取り上げたイランの反政府デモはその後も収まる様子を見せていない。 今朝の朝日新聞は国際面に「「女性、命、自由」命がけの抗議」の見出しで、その現状を報じていて、面白く読んだ。
イランで22歳の女性が髪を覆う「ヘジャブ」をきちんと付けていないとして逮捕された後、急死した事件への抗議デモが止まらない。 治安部隊の弾圧による死者が増え、国際批判が高まる中、政府内でも暴力的な鎮圧に異論も出ている、と記事は伝える。
死後40日に当たる今月26日はイランでは喪が明ける日。 イラン学生通信によると、地元の墓地周辺には約1万人が集まった。 英BBCなどによると、群衆は『独裁者に死を』と叫び、治安部隊は催涙弾を発射し、鎮圧を試みたという。 テヘランなどでもデモがあり、一部は街頭で政府批判の声を上げた。 最近、テヘランの住宅の外壁や路上では、「女性、命、自由」と書いた落書きが散見される。 そしてヘジャブの着用が法律で義務づけられている公共の場で、あえて髪を出す女性たちの姿も増えた。 路上や車内、スーパーやカフェといった様々な場面で、ヘジャブを肩にのせている。
イランの最高指導者ハメネイ師は３日、一部の抗議活動について『暴動だ』と断じ、米国とイスラエルが事前に仕組んだと主張。 女性がヘジャブを脱ぐのは『正常な反応ではない』と非難した。 だが、政府内には強硬な抑圧に疑問の声もある。 政府関係者は『平和的デモを武力で鎮圧するのは残念だ』と語る。 ライシ大統領も過度な抑圧を問題視しているとされ、政府内ではヘジャブをめぐる法改定や、風紀警察による着用取締りの緩和を模索する動きもあるという。 ただ、国会で多数を占める保守強硬派は妥協には反対とされ、事態が収束に向かうかどうかは不透明だと記事はいう。
保守強硬派と目されていたライシ大統領までも事態収拾の模索を始めた、ということに私は一縷の希望を見出している。
１０月２９日
☆ 合計特殊出生率2.95の町
９月28日朝の朝日新聞生活面に、「出生率2.95の町 何とかなりそうな安心感」との見出しの記事が載っていて、面白く読んだ。
岡山県の北東部、鳥取県との県境にある、勝田郡奈義町は人口約5500人の町である。 その町のホームページの一番目立つところに『出生率2.95達成！』の文字が躍っていた。 2019年のデータである。
奈義町の出生率も過去には低迷していた時期もあった｡ 日本全体の合計特殊出生率が過去最低の1.26だった05年には、奈義町も1.41だった｡ そこで奈義町は04年ごろから独自の支援策を始め、約15年の時間をかけて出生率を２倍にした。 財源は役場の職員や議員を減らしてやりくりした。
独自支援の具体例を挙げると、高校生までの医療費は自己負担分を町が負担。 さらに保育料も第１子は国基準の半分ほどに軽減。 第２子以降も減免がある。 小中学校の給食費の補助、教材費の無償化も。 一戸建て（３LDK)に月５万円の家賃で住める「若者住宅」の整備を進め、経済的支援をしている。
町の情報企画課の一職員は出生率向上のポイントを『とにかく、不安を解消することだ』という。 『みんなで子どもたちのことを大事にしよう、育てていこう、という雰囲気をつくることがポイント』で、そこに子育て支援の手厚い制度が加われば不安が安心に変わる。 子どもを産み、育てようと思うようになる。 結果として出生率が上がっていく。
記者が珍しいと思った支援もあった。 高校生１人あたり年13万5千円を３年間支給する。 町外の高校に通うバス代の一部補助の位置づけである。 高校生が毎日バス通学してくれればバス路線を守れる。 そうすると車を持たないお年寄りが買物や病院などに通う手段を守れる。 少子化対策は最大の高齢者福祉になる。
急激な少子化は社会に手酷い歪みをもたらす。 その対策は奈義町のような心構えで行なうべきであろう、と私は考える。
１０月２８日
☆ 財政規律無視の自民党
今朝の朝日新聞は、１面左下部に「補正予算29兆円超 政府決定」との見出しの記事があり、３面に「４兆円 一夜で丸呑み」の見出しで自民党内のやりとりの報道が載っていて、面白く読んだ。
政府の総合経済対策に伴う第２次補正予算案は、コロナ禍の昨年に匹敵する29兆円あまりに膨れあがる。 『規模ありき』で増額を求める自民党の大合唱に、岸田政権も同調。 要求をほぼ丸呑みした格好だ、と記事はいう。 財政規律の緩みにブレーキがかかる気配はない。
26日午後、岸田文雄首相は、鈴木俊一財務相から、経済対策の説明を受けていた。 財務省が示した補正予算の規模は、与党の意向も踏まえたはずの25.1兆円。 しかし、首相周辺によると、首相は『何でこんなに少なくなっているんだ』と声を上げたという。 萩生田光一政調会長は安倍派で、「アベノミクス」の積極的な財政政策を重視する立場である。 いろいろな新型コロナ対策が盛り込まれた昨年の補正予算を念頭に『30兆円を超える規模が必要』と早くから大盤振る舞いを求めていた。 首相周辺が『昨年とは違う。 まず中身をどうするかだ』と語るなど、政権内には『規模ありき』の議論に距離を置く意見もあったが、首相は『中身が大事。 規模も大事。 納得して貰える規模を考えていく』と、自民党への配慮をにじませた。
萩生田は26日午後、財務省幹部に『もっと積めるだろう』と、金額の調整を要求。 首相もその３時間後の午後９時過ぎ、官邸に鈴木財務相を呼び出し、見直しを指示した。 『29兆円を超えられるように、もう一踏ん張りしないか』。 翌27日、財務省が提示した補正予算案の金額は４兆円多い29.1兆円。 内訳は、元々あった「物価高騰・賃上げへの取り組み」や「新しい資本主義の加速」などに加え、「今後への備え」という項目が新たに加わっていた。
このところの自民党は、国債の増発に何の抵抗も感じなくなっているように見える。 そして岸田首相にもその感覚があり、財政規律など何処吹く風の態度を見せている。 諸外国に比べて国の債務のGDP比がずば抜けて大きい日本が、それで済むのであろうか。
１０月２７日
☆ 中国共産党の改定規約
今朝の朝日新聞３面左下部に、「中国共産党規約 主席制復活せず」との見出しの記事が載っていて、面白く読んだ。 「党規約」は一応、党の組織構造などを規定したものらしいが、目下の課題についての「宣言」も含まれているようである。
中国共産党は26日、先の党大会で採択された党規約の全文を公表した。 台湾統一に関して『台湾独立に断固として反対し抑え込む』ことや、習近平総書記（国家主席）が掲げた「中国式現代化」によって発展を推し進めることなどが新たに明記された。 一方、習の権威を高めるような表現を盛り込むことは見送られた。
22日の党大会閉幕時に採択した党規約改正の「決議」では。習の核心的地位と政治的理念の指導的地位の「二つの確立」について『決定的意義を深く理解する』ことが強調されていた。 だが、党のルールとして習への忠誠を義務化することは避けた模様である。 さらに、毛沢東の終身制を招き、鄧小平が1982年に廃した党主席の復活も見送ったほか、毛が呼ばれていた「人民の領袖」といった肩書きで習を位置づけることもなかった。
習の威信を過度に高めることについては、党内にも一定の警戒がある。 特に、終身制に繋がる党主席の復活には抵抗も強い。 外見には絶対的権力を握ったように見える習も、実態はそれほどではなく、まだ党内の意見に一定の配慮をしなければならない段階なのだろう、と私は考える。
１０月２６日
☆ 山極経済再生相の更迭
今朝の朝日新聞は１面トップに「更迭 異例の首相説明」の見出しの記事を載せ、２面「時時刻刻」でその解説をしていた。
岸田文雄首相は25日、旧統一教会との関わりが相次いで表面化した山極大志郎・経済再生相を事実上更迭し、その後任に後藤茂之・前厚生労働相を起用した。 同日午後に開かれた衆議院本会議では経緯を説明し、『国会開会中に大臣を辞任する事態になり、深くお詫び申し上げます』と謝罪した。
山極は教団側との接点についての党の「点検」で曖昧な言辞を弄していた。 だが、教団と関係を持つ議員は閣僚にしないと言っていた岸田首相は、８月の内閣改造で山極の留任を決めた。 それは、山極と関係の近い党内の重鎮、甘利明・前幹事長から首相に続投要望を伝えられていたからだと言う。
とにかく、岸田には自主性がなさ過ぎる。 岸田は宏池会を引き継いで、リベラルな面を有し、それなりに期待されるが、自分の理念・信念に乏しく、すぐに党内の事情・空気に流される。 これからも流され続けるのであれば、あまり期待はできない、と私は考える。
１０月２５日
☆ 英国新首相にスナク元財務相
今朝の朝日新聞は１面中ほどに、トラス英首相の後任を決める与党保守党の党首選をめぐり、保守党「1922年委員会」は24日、リシ・スナク元財務相だけが立候補し、党首に選ばれたと発表したことを報じ、７面に関連記事を載せていた。 立候補には、党所属下院議員357人のうち100人以上の推薦が現地時間24日午後２時までに必要だった。 出馬を模索していたモーダント下院院内総務はこの要件を満たすことができず、断念した。
スナクは１カ月半前の党首選にも立ってトラスに破れた。 コロナ下の経済対策で国の借金がかさんだ局面で「減税による経済成長」を訴えたトラスの経済政策を『おとぎ話だ』などと訴えたが、党員には届かなかった。 だが、トラスの経済政策はスナクの警告通り、金融市場を混乱させた。 通貨ポンドは下落し、国債金利が上昇。 国債金利と連動して住宅ローン金利などが上がるため、多くの市民が危機を「実感」した。 スナク新首相は財政規律を重視することが期待され、私は歓迎する。
そして私が興味を持ったのが、スナクの若さと、彼がインド系であることである。 スナクは1960年代に東アフリカから英国に移住したインド系の両親のもと、サウサンプトンで生まれた。 そして、オックスフォード大学で哲学、政治、経済学を学び、その後米国カリフォルニアのスタンフォード大学でMBAを取得した。
スナクは1980年5月生まれで42歳、英国では20世紀以降、最も若年でかつ、同国史上で初の非白人・アジア系の首相である。 その活躍を私は期待する。
１０月２４日
☆ イランの反政府デモ
今朝の朝日新聞の社説は「イラン騒乱 力で不信は押さえ込めぬ」の表題で、イラン全国でこのところ起きている反政府デモを取り上げていて、面白く読んだ。
イランでは先月半ばから反政府デモが続いている。 抗議は全国に広がり、ハメネイ最高指導者やライシ大統領ら体制への批判に発展している。 当局は治安部隊を投入して徹底的な押さえ込みを図っており、大勢の死者も出ている模様である。
きっかけは、22歳の女性マフサ・アミニが９月13日、髪を隠す布「ヘジャブ」の付け方が不適切だとの理由で風紀警察に逮捕され、警察署に移された後、16日に急死したことにある。 当局は「心臓発作」と説明したが、警察官の暴行を疑う声が広がった。
イランには行政府の長、大統領を選挙で選ぶ制度があり、ロハニ前大統領は保守穏健派で、ヘジャブ装着の取締りは緩やかだった。 だが、昨年６月の大統領選挙では、事前の候補者資格審査で有力候補者が軒並み失格とされた。 ライシ師を候補者にしたいというハメネイ師の意向とされる。 結局、選択肢は奪われ、投票率は過去最低で、ライシが大統領になった。 ライシは保守強硬派で、ヘジャブ装着を厳格にするように「風紀警察」に命じた。 風紀警察は2006年に保守強硬派のアフマディネジャド政権が導入したもので、女性が公の場で、ヘジャブやチャドルと呼ばれる布で髪や全身をちゃんと覆っているかどうかを専門に取り締まる。
ネットなどで自由な価値観に触れてきた都市部の若者の間には、風紀警察は廃止して欲しい、さらにはヘジャブの装着強制を止めて欲しい、との声も高まっているという。 騒乱の沈静化には、このような声を生かして、せめて保守穏健派の線まで政治を戻すことが必要ではないか、と私は考える。
１０月２３日
☆ 習近平への権力集中
今朝の朝日新聞は１面トップに「習氏に権力集中 加速」の見出しの記事を載せていた。 副見出しは「ブレーキ役 李首相退陣へ」である。 22日に閉幕する中国共産党大会の特徴はこの見出しで総括される。 ３面にその解説が載っていて面白く読んだ。 その見出しは「習体制「外様」退場」である。
22日に閉幕した中国共産党大会が選出した新たな党幹部の名簿から、最高指導部の顔ぶれが大きく変わることが明らかになった。 ３期目続投を確実にした習近平に対し、党序列２位の李克強首相は一線から去る。 腹心で周囲を固めてきた習は「外様」を退場させ、さらに権力集中を強めることになる。
党指導部には、党大会の年に67歳以下であれば留任、68歳以上なら退く「七上八下」という不文律があるとされる。 だが、22日に選ばれた党幹部の中央委員に定年を超える69歳の習が残った一方、共に67歳の李や序列4位の汪洋・全国政治協商会議議長は外れた。 この両氏の退任は、習近平１強が進む指導部で、バランスに配慮してブレーキを掛ける役割がなくなることを象徴する。
鄧小平は、毛沢東への個人崇拝が引き起こした文化大革命の混乱の反省から、集団指導制を導入した。 だが、習近平はそうした暗黙のルールを勝手にに破って、自分に権力を集中させた。 鄧小平は「大人」で、民主化の動きこそ弾圧したが、共産党の規律ある発展を願っていた。 だが「小人」の習近平は自己への権力集中を最優先して、中国国家はおろか、共産党の正常な運営さえも眼中になかった。 まともなブレーキを失った中国共産党はこれからどうなるのだろうか、私は大いに危ぶんでいる。
１０月２２日
☆ トラス英首相の辞任
英国のトラス首相は一昨20日に、辞任を表明した。 ９月６日の就任から44日での辞任表明になり、史上最短の任期となる。 英保守党は来週中に党首選を実施する。
トラスは、ジョンソン前首相が７月に辞意表明したことを受け、保守党の党首選に立候補。 ロシアによるウクライナ侵攻で加速したインフレに英国が苦しく中、「減税」を掲げて勝ち抜いた。 だが、９月23日に公表した総額450億ポンド（約7.5兆円）規模の減税を柱とした経済政策が、財源の裏付けに乏しかったため、金融市場が混乱。 金持ち優遇との批判も呼び、国際通貨基金（IMF）から『格差を広げる可能性が高い』と異例の再考を促された。 トラスは減税案を相次いで撤回。 17日にはハント新財務相が『税制措置はほぼ全て撤回する』と表明。 党首選を勝ち抜いた看板政策が市場に否定された結果となった。
今朝の朝日新聞は、このトラス首相辞任についていろいろ書いている。 私はトラスの政治的センスが極めて劣弱であると考える。 例えば大幅減税の目玉は『年収15万ポンド（2525万円）以上高所得者の最高税率を45％から40％に引き下げる』である。 しかし、これは一般庶民には関係ない富裕層の優遇であることは明らかで、一般ないし市場の評判が悪いの初めから分かりきっていた。
国際面の「考/論」にティム・ベイル・ロンドン大学教授は『トラスは非常にイデオロギー的な政治家であり、自由市場の原理主義者のような人物である。 多くの人は、首相になればより現実的な政策に移行すると期待したが、トラスは英国と保守党を変える大きなチャンスと捉えてしまった。 そして、有権者、市場がついてこられる道を見失ってしまったのだと思う』と語る。 成る程、と私は理解する。
１０月２１日
☆ 米国２極化の深層
今朝の朝日新聞国際面「中間選挙2022」に、社会学者アーリー・ホックシールド・カリフォルニア大学バークリー校名誉教授へのインタビュー記事が載っていて、面白く読んだ。 見出しは「「喪失」が求めるトランプ氏」である。
11月の中間選挙を前に、党派対立と結び付いた米国社会の分裂が改めて顕在化している。 グローバル化で、米国に「持つ者」と「持たざる者」が生まれた。 「持つ者」は、都市部に住んで教育水準が高く、多様性などリベラルな価値観を支持して、上昇する世界に生きている。 「持たざる者」は単純労働者で、非大卒の男性もいる。 下方に動く世界に生きてきた｡ こうした人たちの感情が電気のように鬱積していた。 何世代も続いた「男の仕事」の誇りが失われた感覚である。 トランプは『あなたたちの喪失は私が何とかする。 米国を再び偉大にする。 みんなを愛し、救済する』というメッセージを打ち出した。 支持者にとってトランプは救世主なのである。
或る調査によれば、米国人の３分の１はバイデンを正当な大統領ではないと信じている。 「喪失感」を「（20年の大統領選が）盗まれた」という感覚に置き換えた世界観を信じている。 「盗まれた」とは、白人や男性の優位や誇りを奪われたことのメタファー（暗喩）になっている。 貧富の差だけでなく「喪失」、さらには「盗難」へという感覚に注目しなけてばならない。 正当な投票を疑う動きは、社会の方向を見極めるうえで重要である、とホックシールドは説く。 私にも異存はない。
１０月２０日
☆ 強まるばかりの中国の言論統制
今朝の朝日新聞国際面「中国共産党大会2022」に、「言論統制 強まるばかり」との見出しの記事が載っていて、面白く読んだ。
習近平政権の10年間で中国社会が経験した大きな変化が、言論統制の強化である。 習は開催中の共産党大会でも『断固として国家安全保障と社会の安定を確保する』と語り、治安を重視する姿勢を打ち出した。 長期政権を維持するためにも、メディアやネットへの規制はさらに強まりそうだ、と記事は言う。
習指導部は世論コントロールを国家安定の重要な柱と位置づける。 社会を揺さぶりかねない情報はなり振り構わず封じ込めてきた。 例えば、今年３月、中国南部の広西チワン族自治区で132人が乗った航空機が墜落し、全員が死亡した。 上海駐在の井上亮記者が到着した発生翌日には、すでに現地につながる道路には警察官が配置され、近づけないよう規制。 空港での遺族取材も妨げられた。 取材機会はすべて当局が設定した。 国内メディアによる関連報道は途絶え、事故の背景や遺族の声もほとんど伝えられない。
習指導部の発足前の2011年に浙江省温州市で起きた高速鉄道事故などでは、独立系メディアが独自報道を重ね、世論のうねりをつくった。 そうしたメディアへの統制が強まり、影響力は大きく削がれている。 昨年10月には、政府はニュースサイトなどの記事を転載できるメディアのリストから、独自報道で知られる社を排除した。 党大会の報道官を努める党宣伝部副部長は８月の記者会見で、『ネットの健全な発展なくして共産党の長期執政はない。 これは習総書記が出した重要な結論だ』と語った、
権力を集中し、盤石に見える習近平がそのように神経質なのは何故なのだろうか。 中国共産党独裁の基盤がその程度に脆弱なためなのだろうか、と私は考える。
１０月１９日
☆ 中国共産党独裁の行く末
今夕の朝日新聞夕刊「時事小言」欄に藤原帰一が書いていた「３期目確実視の習近平国家主席 共産党独裁の行く末は」を面白く読んだ。
先日の中国共産党大会で習近平が自画自賛としか呼びようのない演説を続け、会場を満たした参加者がそれを聞く光景を前にして、藤原は奴隷状態に置かれた市民における全会一致について、ジャンジャック・ルソーが書いた一節を思い出していた。 ルソーは「社会契約論」において、「市民たちは自由も意思もない場合」は「恐れとへつらいが投票を喝采に変えてしま」い、「もはや議論は行なわれず、崇拝するか呪うかのどちらか」になってしまう、と書いた。 テレビに映った大会の姿はまさに「恐れとへつらいが投票を喝采に変え」た空間だった、と藤原はいう。
習は台湾統一を党の責務だといい、平和的統一に努力するが、武力行使も辞さない、と述べた。 だが、台湾侵攻は米軍との武力衝突を招く公算が大きい。 そして中国が大規模な武力行使を行なえば、ウクライナ侵攻後のロシアに優に匹敵する国際的圧力の直面することは避けがたい。 当初は国内から支持されたとしても、台湾侵攻は共産党政権の終わりの始まりになるだろう。
では、戦争さえしなければ中国共産党の独裁が続くのだろうか。 そう決めつけるのは誤りだろう、と藤原は言う。 現在中国の矛盾は、市場経済を認めながら政治的自由を排除している点にある。 どれほど盤石に見えたとしても、強権支配の矛盾が表面化することは避けられない。
豊かさのために自由を犠牲にすることはない。 経済成長の果実を手にした中国国民にとって、共産党は国民の意思を体現する存在ではなく、恐れとへつらいを強要する過去の遺物にすぎない。 習近平政権が権力の集中を進めれば進めるほど、共産党独裁ではない中国への期待が高まるだろう、と藤原は結ぶ。 藤原のこの見解に、私も賛成する。
１０月１８日
☆ 法人税率のあり方
今朝の朝日新聞経済面に、「防衛費増 財源に法人税？財界警戒」の見出しの記事が載っていて、面白く読んだ。
大幅な増額が確実視される防衛費の財源候補として、法人税が浮上している。 政府は近年、企業の積極的な賃上げや投資を促すために法人税率を引き下げてきたのに、思うような成果が出ていないためである。 経済界は警戒を強めている、という。
法人税率は、企業の国際競争力を高めるなどの目的で順次引き下げられてきた。 1984年には43.3％だったが、今は23.2%まで低下している。 国・地方税を合わせた実効税率も29.74%となった。 しかし、期待通りの効果が出たとはいえない。 財務省法人企業統計によると、15年度と比べた21年度の賃金（福利厚生費を含む）の伸び率は４%、設備投資は７%にとどまる。 一方で、企業がため込む現預金は同じ期間に４割も増えた。
ウィキペディアによると、日本の2019年度の一般政府収入は、社会保険拠出39.8%、物品税・消費税20.1％、個人所得税18.8%、法人税13.0％、資産税8.0%である。 私は法人税がいかにも少なすぎると考える。
法人税率はすべからく実効50％にすべきである。 そして個人所得税率も現行の最高、4000万円超45%を、１億円超50％、3億円超60％、10億円超70%にするのがよい。 個人所得税の最高税率引き上げはどのくらいの増収をもたらすかは分からないが、法人税率の50％への引き上げの効果は明白である。 早く実現させて欲しい、と私は考える。
１０月１７日
☆ 習近平総書記の政治報告
今朝の朝日新聞は１面トップに、中国共産党大会での習近平総書記の政治報告について報道し、２面にその詳報・解説を載せ、国際面に２人の識者による「考/論」を載せていて、面白く読んだ。
報告は全体的に自画自賛に満ちている。 経済分野でも、習が総書記に就いてからのこの10年間に、国内総生産（GDP）の規模は２倍を超え、穀物生産量、製造業の規模、高速鉄道網、研究開発者数は世界一。 経済規模で世界２位の座を安定的に維持したとした。 しかし、これらは土地の広さと人口の大きさに伴うもので、習の力によるものではない。 そして、東京財団政策研究所の柯隆・主席研究員が言うように、GDPが10年間で平均何%成長したかには触れなかった。 江沢民元総書記や胡錦濤前総書記の時代よりも低い数字になり、功績ではなくなってしまうからである。
今年の経済成長率は目標の5.5%をはるかに下回って、２～３%になると予想される。 そうなる要因の大きな一つは、習が強引に推し進めている「ゼロコロナ政策」である。 だが、習はこの政策をも功績として誇っている。 生活の不自由を強いられている国民がどう受け取るかは問題だろう、と私は考える。
１０月１６日
☆ グローバルだったモンゴル帝国
今朝の朝日新聞「日曜に想う」欄に、有田哲文記者が「グローバルだったモンゴル帝国」を書いていて、面白く読んだ。
元寇で知られる「元」、すなわちモンゴル帝国は、中国の明朝より前に、ユーラシア大陸の大部分を征服した、野蛮な軍事国家との印象が強い。 だが、有田は最近、岡本隆司・京都府立大學教授の著書「明代とは何か」（名古屋大学出版会）を手に取り、はっとさせられたという。
モンゴル帝国といえば、武力・軍事力による征服が全てと考えるのは如何にも短絡的で、軍事に裏打ちされた経済・商業がむしろ重要であった。 そしてそれを意識的・積極的に推し進めていったのが、クビライだった。 チンギスの孫で第５代皇帝クビライの時代、モンゴルの騎馬遊牧民は、ウイグルなどの商人たちと提携し、シルクロードを中心にヒトとモノの動きを活発化させた。 基軸通貨ドルを思わせる独自の紙幣が流通し、共通言語としてペルシャ語が使われた。 陸だけでなくインド洋の海上交通も盛んだった。
しかしこの13～14世紀の「グローバル化」は、ペストの流行で行き詰まる。 地球の寒冷化を背景に、帝国の商業ルートを通じて死の病が広がり、大陸のヒトの流れを大幅に停滞させ、商業を基盤とした帝国は落ち目を迎える。
その後のユーラシア大陸は東西に分断され、中国には明朝が生まれた。 そして明朝はモンゴル時代と正反対の政策を採った。 貨幣を排除し、穀物や労役などの現物経済に回帰した。 貿易を禁じ、モノの行き来は明朝皇帝への貢ぎ物とその返礼に限った。
中国では漢人が皇帝になると、とかく視野が狭くなる。 今や皇帝の権力を握った習近平にとっては、新疆ウイグル人もチベット人も支配の対象としか見えないのであろう、と私は考える。
１０月１５日
☆ 中国共産党の仕組み
今朝の朝日新聞10面に、中国共産党の仕組みなどの解説が載っていて、面白く読んだ。
16日に５年に一度の中国共産党大会が始まる。 中国では、党の規約で『党がすべてを指導する』と定められている。 つまり、国の主権は国民にではなく、党にある。 その具体的現れの一つが、政府機関や学校、企業など多くの職場に共産党の「党委員会」や「党組」があり、そのトップの書記がその組織の最高権力者であることである。 書記は大學では学長、企業では社長より格が上、地方の省や市もトップは書記で、省長や市長ではない。
１億人近い党員がいる中国共産党は、「ひら党員」から総書記までのピラミッド組織である。 党大会は党の「最高指導機関」とされ、各分野や地方を率いる中央委員（約200人）と中央委員候補（約150人）を決める。 選ばれた中央委員は、党大会が閉幕した翌日に最初の全体会議（１中全会）を開き、政治局員（現在は25人）、政治局常任委員（同７人）を選ぶ。 常任委員と政治局員は「共産党株式会社」の役員のようなもの。 実際には長老らを含む有力者による事前の調整で顔ぶれが決まっており、部長クラスの中央委員たちはお墨付きを与えるだけである。
中国共産党の出世の仕組みは、私たちに身近な会社の出世レースによく似ている。 どちらもリーダーは密室で決まり、部下は実績を上司にアピール。 昇進には有力者とのコネがものを言い、時に派閥争いや権力闘争がくりひろげられる。 最高指導部の政治局常務委員会は会社でいうと取締役会で、習近平総書記が代表権のある社長にあたる。 そして今は習近平が多少なりとも一目を置かねばならなかった年上や古株の同僚がいなくなり、党の「創業者の２代目」のような存在になって、ワンマン社長になりつつある、というのが記者たちの見立てである。 面白い。
１０月１４日
☆ 新幹線物流
今日、10月14日は新橋と横浜の間に鉄道が開業して150年目の記念日である。 今朝の朝日新聞はオピニオン面に耕論「鉄道150年 次の軌道は」として３人の方の論を載せていた。 中でも石井幸孝・JR九州初代社長の「大動脈走る「新幹線物流」」を面白く読んだ。
近い将来、北海道の札幌から九州の鹿児島まで、新幹線の大動脈が完成する。 新幹線はもともと、夜間にコンテナで貨物輸送する計画だった。 ところが想定以上に全体の工事費がふくれ、貨物にストップがかかった。 それで貨物には縁のない、現在の新幹線が出来上がった。
しかし、新幹線は深夜から明け方にかけては走っていない。 そこで、３分おきぐらいに旅客列車が走る東海道・山陽新幹線などは、昼間に貨物列車を走らせるのは無理としても、深夜から明け方までは自由に走らせることができる。 新幹線貨物は極めて高速に大量輸送できる物流手段である。 これを生かせば、運転手不足が深刻な長距離トラックに代わって、画期的な物流システムが構築できる。
石井は、今こそ政府主導で貨物を含めた「JR新幹線会社」を立ち上げたらどうか、と提案する。 私にも異存はない。
１０月１３日
☆ 保育園の保育士配置基準
今朝の朝日新聞は３面に、「配置基準 保育士の悲鳴」という見出しの記事を載せていて、興味を持って読んだ。
静岡県内の認定こども園で起きた送迎バスの事故を受け、政府は１２日に緊急対策をまとめた。 ただ、子どもの安全にかかわる場面はバスに限らない。 最長70年以上変わらない保育士配置基準の見直しを求める声が上がる、と記事はいう。
国は保育士１人あたり何人の子どもをみるかという配置基準を決めている。 ４，５歳児では子ども30人を保育士１人で見ることになっている。 ０～３歳児ぼ基準は見直しがあったが、４，５歳児は1948年以降、一度も変わっていない。 手厚い配置をするとその分、公費で賄う人件費がかさむとしう事情も背景にある。
保育士配置基準は、何事も起こらないという前提の下で成り立っている。 しかし、保育施設の職員へのアンケートでは『今の基準では災害時に、子どもの命と安全を守れない』という回答が84％を占めた。 実際、欧州の先進国では15人に保育士１人を配置している。 日本でもこのレベルの基準に改めるべきだ、と識者はいう。
そもそも、日本は 子どもに掛ける予算が欧州と比べて低い。 ある調査（19年度）では、子育て支援などの予算は対CDP比で、スウェーデン3.40％、英国3.24％、フランス2.85％なのに対し、日本は1.73%である。
エダノミクスでは、増税をして、増収分を教育、保育、医療などの分野に回すことを考える。 私はエダノミクスのこの考え方に賛成である。
１０月１２日
☆ 経済学の「物語」性
今朝の朝日新聞オピニオン面「多事奏論」欄に、原真人・編集委員が「経済学の「物語」 アベノミクス 虜となった日銀」の見出しの文章を載せていて、面白く読んだ。
経済学という学問を生み出したのは18世紀の哲学者アダム・スミスである。 その著「国富論」に登場する「見えざる手」という言葉がよく知られる。 人々が利益のため働き、モノを売り、欲しいモノを買う。 その結果、社会全体では自動的に市場機能が働き、生産や分配が調整される、という説である。 経済学の歴史とは、いわばこの「見えざる手」のありかを探し、どう制御ればいいかを考える旅だった。
そもそも経済活動は「１回しか起きないこと」の積み重ねである。 だから実験・検証が難しく、物理・化学など自然科学の法則と異なり、経済の法則にはどうしても仮説性がつきまとう。 そのため、｢経済学は科学か」という問題提起がしばしば起きる。 ならばその枠を取り払ってしまえという案もある。 米経済学者ロバート・シラーが説く「ナラティブ」経済学である。 ナラティブとはある社会や時代を説明する物語のことである。 時代の空気をつくるストーリーと言い換えてもいい。 それを分析すればいい、というのである。
例えば日本では『円安は国益にかなう』という物語が長らく根付いている。 『デフレ脱却こそが経済再生の道』というアベノミクスが描く物語も広く浸透した。 いま激しく続く円安ドル高と値上げラッシュは、現象面だけ見れば、政権や日本銀行が語っていた脱デフレの理想の道筋のようである。 実際は人々が不満を募らせ、この状況をつくった政権や日銀に厳しい目を向けている。 異次元緩和は財政劣化という深刻な副作用も生んでいる。
経済が人間の営みである以上は、ストーリー性も切り離せない。 とはいえ、万有引力の法則とまではいかずとも、経済学や経済政策にも最低限の規律、基本となる科学的法則を確立することが、いま政治家と経済学者に課せられた責任ではないか、と原はいう。 けだし珍重に値する識見である、と私は考える。
１０月１１日
☆ ウクライナ各地にミサイル攻撃
今日10月11日は朝日新聞の休刊日で朝刊は休みだったが、夕刊は１面トップに「ウクライナ各地にミサイル 14人死亡」の見出しで、10日に首都キーウ中心部を含むウクライナの多くの都市にロシア軍によるミサイル攻撃があったことを報じていた。 ウクライナ非常事態庁は現地時間の同日午後９時の時点で14人が死亡し、68人がけがをしたと発表した。 ロシアのプーチン大統領は、ロシアとクリミアを結ぶ橋で８日にあった爆発に対する反撃だとし、さらなる報復攻撃の考えを見せたという。
ウクライナ軍参謀本部によると、ロシア軍は計84発の巡航ミサイルと、24機の無人航空機（ドローン）で各地を攻撃。 このうち、ウクライナ軍は43発のミサイルと13機のドローンを打ち落とした。 防御し切れなかったミサイルなどが各地で着弾。 同庁によると、キーウのほか12州で電力設備など重要インフラが被害を受け、30件以上の火災が発生、住宅35棟を含む計117の建物が被害を受けた。 15州で電力供給が一部停止し、水道も各地で止った。
プーチンはロシアとクリミアを結ぶ橋の爆発は「テロ」だと言っているそうだが、それはウクライナが行なったとしても、ロシア軍の補給を妨害する正当な戦闘行為である。 それに対し、民間人や民間施設へのミサイル攻撃は間違いなく「テロ」行為である、と私は考える。
１０月１０日
☆ 習近平の「小人」ぶり
今朝の朝日新聞国際面に、「見えぬ次世代リーダー候補」の見出しで、16日開幕の中国共産党大会に向けた準備の状況の報道が載っていて、面白く読んだ。
今回の大会では、指導者たちの高齢化が進むとの指摘が出ている。 2017年の前回党大会では、７人の最高指導部は全員が60歳以上で、発足時から60歳未満のいない体制は1987年以降初めてだった。 今回の党大会では、そのうちの５人が最高指導部に残る可能性があり、その分 世代交代は滞ることになる。 最高指導部だけでなく、一つ下の政治局員も現在、60歳未満は１人だけである。
80年代、改革開放という大胆な変革を進めた鄧小平は、中国が世界の潮流に追いつくために「幹部の若年化」を進めた。 世代交代をスムースにするために、次世代のリーダー候補と目される若手を党指導部に引き上げ、経験を積ませる体制をつくった。 代表例が胡錦濤前国家主席である。 まだ49歳だった92年の党大会で最高指導部入りし、10年後に党トップとなった。 今の中国を率いる習近平主席と李克強首相も50台前半だった07年の党大会で最高指導部入りをし、５年後の世代交代に備えた。 ただ、今回の党大会ではそうした次世代リーダーは現れそうもない。
今まで党は幹部候補生を競争させ、実績を上げた優秀な若手を党中央の要職に抜擢してきたが、習指導部は実力や競争にも増して、党や指導部への忠誠心を求めるようになった。 習は行き過ぎた出世競争や、競争に基づく能力重視の若手抜擢には弊害があると指摘している。 ただ、習近平のこうした動きの背景には、ライバルの台頭を抑え、権力集中を図る目的もあると見られる、と記事はいう。 習はその程度にスケールの小さい人間のだろう、と私も考える。（先日のつぶやき「中国の「大人」と「小人」」参照）。
１０月 ９日
☆ 米国を分断する「文化戦争」
今朝の朝日新聞は、１面トップから２面にわたって、米国を２つの国に分かつような「世界観」の衝突について報じていて、面白く読んだ。 人種や性、宗教、教育を巡って個人の信条や価値観が剥き出しでぶつかり、妥協の余地のない「文化戦争（Culture War）」と呼ばれる。
米国で激化する「文化戦争」のテーマは、妊娠中絶、銃規制、同性愛や学校教育に至るまで幅広い。 人種や性をめぐる社会課題を重視する人々と、伝統的な価値観を大切にしたい人々の間で溝は深い。 この対立は都市と農村との地域差や、大學を卒業しているか否かという学歴差とも結び付いている。 政治的には前者を民主党、後者を共和党が代表し、激しい党派対立を増幅させてきた。 11月の中間選挙の一大争点ともなっている。 ｢文化戦争」の著書もあるバージニア大学のジェームズ・ハンター教授（社会学）は『文化という妥協できないテーマが政治問題になった結果、米政治は二極化した。 保守派だけでなく、進歩派の過激化も進んでいる』と指摘する。
ある意味でこの「文化戦争」は健全な動きなのかも知れない。 しかし、それによる妥協のない分断が進むのは好ましくない。 それへの最善の対処法は、富裕層や大企業への増税によって財源を確保し、それを用いて社会民主主義的政策を推し進めることにあるのではないか、と私は考える。
１０月 ８日
☆ 今年のノーベル平和賞
今朝の朝日新聞は１面トップに、今年のノーベル平和賞がベラルーシの人権活動家とロシアとウクライナの２人権団体の３者に贈られたことを報じ、２面「時時刻刻」にその活動内容の詳細を載せていた。 また、11面（国際面）には、国連事務総長や欧州連合（EU）が歓迎し、ロシアとベラルーシの政府関係者が猛反発し、中国の国営新華社通信や他の主要メディアは発表の６時間後になっても何も伝えていない、などと報じていて、国による対応の違いがよく見えて、面白く読んだ。
今回のノーベル平和賞は、強権性を強めたプーチン政権のロシアが隣国ウクライナに侵攻し、ベラルーシの強権政権が侵攻に協力する中での授与となった。 市民社会が専制政治に抑圧された末に平和が犠牲になったことを受け、３者の活動の意義を訴えた。 ノルウェー・ノーベル委員会のライスアンデシェン委員長は３者について『自国の市民社会を代表する存在。 権力を批判する権利と、市民の基本的権利を守ることを長年推進し、戦争犯罪や人権侵害、権力の乱用を記録するために並外れた努力を積み重ねてきた。 平和と民主主義にとって市民社会の重要性を示している』と語った。
私はノルウェー・ノーベル委員会が平和賞をこのような見地に立って授与したことを、まさにノーベル平和賞の精神を体現するものと考え、大いに歓迎する。
１０月 ７日
☆ 日銀総裁の後任人事
今朝の朝日新聞は、１面トップに「日銀総裁人事「頭が痛い」」の見出しで、５月上旬、岸田文雄首相が自ら率いる派閥「岸田派」の議員らとの会食でそう漏らしていた、との記事を載せ、２面にその続きを載せていた。
日本銀行の黒田東彦総裁の任期が、８日で残り半年となる。 在任期間は10年近くになり、交代が確実視されるなか、後任人事に注目が集まる。 黒田は市場に大量のカネを供給する「異次元緩和」を続け、アベノミクスの中核を担ってきた｡ 急激な円安や物価高など緩和の副作用が重くのしかかるなかで、日銀総裁選びは日本経済のゆくえにも影響し、岸田政権にとって失敗の許されない判断となる。
今年３月の日本銀行の審議委員人事では、積極的な金融緩和と財政拡大で景気回復を目指す「リフレ派」の片岡剛士の後任に、緩和からの出口戦略について分析する高田創を任命することが国会で承認された。 これに対してさえもリフレ派は、アベノミクスの修正に繋がるのではないか、と神経をとがらせている。
先日のつぶやき「円安という「麻薬」」で述べたように、金融緩和の副作用で市場機能や政府の財政など様々な面で歪みが生じている現在、大規模金融緩和はもう既に止めるべき時期に来ている、と私は考える。 だが、自主性がなく、確固たる理念・信念を持たない岸田首相がそれをできるかどうかについては、私は疑問を持たざるを得ない。
１０月 ６日
☆ 立憲民主党が「追求型」回帰
今朝の朝日新聞２面下部に「立憲 「提案型」から「追求型」回帰」の見出しの記事が載っていて、面白く読んだ。
８月の新体制発足後、初の本格的な国会論戦に臨む立憲民主党は、政権を厳しく追及する姿勢を鮮明にした。 衆議院代表質問に立った泉健太代表は、｢政策提案型」で臨んだ先の通常国会の路線から切り替え、政権と厳しく対峙する「追求型」への回帰を強調した。
私はこの回帰を当然だと考える。 そもそも、野党が総合的な政策体系を持たず、個々の細かい事案について政府に提案するなどいうのは野党の本分に反する。 その意味で「追求型」への回帰を私は歓迎する。 ただ、野党第１党の立憲民主党としては、政府・与党を追及するだけは不十分で、すべからく社会民主主義というようなしっかりした政治理念に基づく総合的な政策体系を作成し、それを基に政府・与党と対決し、さらには野党共闘による政権交代を目指すべきである、と私は考える。
１０月 ５日
☆ 習近平総書記が３期目続投へ
今朝の朝日新聞は１面左肩部に、16日から始まる中国共産党大会で、習近平総書記（国家主席）が、総書記が２期（10年）で退いてきた慣例を破り、３期目に入ることがほぼ確実になったことを報じ、３面に詳しい解説を載せていた。
党最高指導部には、党大会の年に68歳以上なら引退するという暗黙のルールがある。 現在69歳の習は対象者だが、昨年来、毛沢東に並ぶ「人民の領袖」という別格の存在として扱われており、定年は問題にされない模様だという。
中国は、毛への個人崇拝が文化大革命を招いた反省から、鄧小平が1980年に集団指導体制を導入して過度の権力集中が起きないようにし、江沢民、胡錦濤の２人は一定の期間で後輩に道を譲った。 だが習は2018年に国家主席の任期制限を撤廃するなど、長期政権への布石を打ってきた。 党は表向き、選ばれた少数の指導部で意思決定を行なう「民主集中制」という考えを捨てていない。 しかし、実質は習に権力が集中し、習指導部ではこのシステムが形骸化しているとの見方がもっぱらである。
大人であった鄧小平は一党独裁を絶対とする限界はあったが、自分の権力より党運営を優先して制度を整えた。 それに対し、習近平は小人で、自分の権力拡大を最優先している。
毛沢東の地位は事実上の「終身制」だった。 習は今まで終身制を否定してきた。 それでも習が引退を余儀なくされる制度上の縛りはなくなり、習自身の決断以外に世代交代を進めるすべのない状況である。 習はいつまでその地位にとどまる積りなのであろうか。
１０月 ４日
☆ 野党第１党のあり方
今朝の朝日新聞４面左肩部に、立憲民主党の前代表・枝野幸男へのインタビュー記事「野党第１党「公器」の意識を」が載っていて、面白く読んだ。
枝野の考えの原点は、一つの時代の終わりの始まりが2009年で、そこで政権交代が可能な二大政治勢力を作るという一種の完成形にたどりついた。 そこから新しい時代の模索が今も続いていると思う、と枝野はいう。 野党第1党は公器である。 党幹部、党員、支持者の持ち物ですらない。 与党と同じ公器。 その意識をもっと強く持たないといけない。
長期政権を築いた安倍晋三元首相は、枝野は大きい意味で正しいと思うという。 エッジを立てる（主張を鮮明にする）ことで一種の安定政権を作った。 安倍内閣は、あんなに長くエッジを立てながらまとめることができた。 安倍元首相は、やろうとしていることがこちらと違っているにしても、何をやろうとしているのかは一定程度わかった積りで対峙できた。 だが、岸田首相は何をしようとしているかがわからない。 蜃気楼を相手にやっているような話なのである、と枝野はいう。 私も同じように感じている。
ところでエッジを立たせるほど幅広い結集にはつながりにくい。 立憲民主党は野党第１党として、自民に対抗するため幅広く結集しなければならないが、そうするとエッジが立たなくなるという矛盾がある。 それでも今は、エクセントリックではなくエッジをたてることが求められている時代である。 政治効果的に、理念的に。 極端ではないエッジを立てることができた時に、たぶん政権が代わる、と枝野はいう。
私も枝野の意見に強い共感を持つ。 早く枝野が立憲民主党代表に立ち戻って、その理念通りの政治を展開して欲しい、と私は考える。
１０月 ３日
☆ 発足１年を迎える岸田内閣
岸田内閣は明日４日に政権発足１年を迎える。 今朝の朝日新聞は今月１、２の両日に実施した全国世論調査（電話）の結果を載せていた。
岸田内閣の支持率は今年の夏までは比較的高い水準で安定していた。 何もしなかったので、期待を維持していたのであろう。 しかし、秋に入り、９月からは急激に落ち込んだ。 ７月の支持率は57％と高い値だったが、８月には47％と落ち込み、９月41％、10月40%とさらに落ち込んだ。 そして８月に39％と支持率を下回っていた不支持率が、9月には47％と、政権発足以来始めて支持率を上回り、今回10月は50％と半数に達した。
この支持率の急激な低下には、安倍元首相の国葬と、政治家と旧統一教会を巡る問題への岸田首相の対応が響いている。 国葬については、７月の参議院選投票日の２日前に安倍が銃撃で死亡してから間を置かずに岸田が国葬を表明した当時は、賛成が反対を上回ったが、安倍の旧統一教会との深い関係が明らかになって反対が多数になった。 しかし、岸田はそれを無視して国葬を強行した。
また、自民党員と旧統一教会とのかかわりについては岸田は調査に消極的で、党員からは自主的申告による「点検」でお茶を濁しており、安倍と教会との関係の調査も拒否している。 これらは岸田が国民にではなく、自民党、特に保守派に顔を向けている証しで、国民に愛想を尽かされている。
私も一時はリベラルな宏池会の伝統を引き継ぐ者として岸田に期待したが、その理念・信念を持たない行動を見て、今ではすっかり醒めてしまった。
１０月 ２日
☆ 円安という「麻薬」
今朝の朝日新聞４面「Sunday Wide」欄に、野口悠紀雄・一橋大学名誉教授へのインタビュー記事「円安という「麻薬」 弱めた成長力」が載っていて、面白く読んだ。
日本銀行が黒田東彦総裁のもとで大規模な金融緩和を始めてまもなく10年になる。 米欧が利上げを進める一方、今も金融緩和を進める日本は歴史的円安に見舞われている。
円安になるということは国際的にみて、ドルで評価した日本人の賃金が安くなることを意味する。 アベノミクスの狙いはまさにこれだった。 中国が工業化して輸出を伸ばしてきたことへの対処として、輸出競争力を回復させるため、日本人の賃金をドルベースで下げることで、生産コストを下げようとした。
問題なのは高度成長期からの産業構造を温存したまま、賃金を下げて製品を安売りする戦略を選んだことだった。 本当に必要だったのは、手術をして高度な産業構造に変えることだった。 しかし、企業城下町が潰れるなどの問題を避け、円安という麻薬を打ち続けた。 その結果、日本の成長力は弱くなってしまった、というのが野口の見立てである。 その対策は、まずは日銀が金融緩和を止めることである。 だが、黒田日銀はまだその出口戦略を示していない。
金融緩和が続き、市場機能や政府の財政など様々な面で歪みが生じている。 政府・日銀はこの10年の効果と副作用を点検して、方向転換するのかを真剣に考えるべき時だと思う、という結語で聞き手の徳島慎也記者は記事を結ぶ。 私にも異存はない。
１０月 １日
☆ ロシアが４州を併合宣言
今朝の朝日新聞は１面トップに、ロシアのプーチン大統領が30日、軍事侵攻で占領したウクライナ東部、南部の、ルハンスク、ドネツク、サプリージャ、ヘルソンの４州を自国に併合する、と一方的に宣言した、と報じていた。 占領地域で「行政」を担う親ロシア派が強行した、「ロシアへの編入」を求める「住民投票」が成立したと強調。 併合文書に調印した。 ロシアは今後ウクライナが領土奪還を試みれば「ロシア本土への攻撃」と主張する考えである、という。 また、２面にその背景などの解説があった。
先日、27日の「つぶやき」でも述べたように、ドネツク、サポリージャの両州ではロシア軍が占領している面積は、州の半分程度である。 そこでの「住民投票」で「ロシアへの編入」を求める票が多数だと強弁しても、州全体を併合するのは無理で、「併合地域」をどう表現するのか、私は興味を持っていた。
ところが今日の報道によると、４州の全地域を併合すると宣言したようである。 そして占領できていない地域は、「ロシア領をウクライナ軍が不法占領している」と主張する意向のようである。 これは極めて苦しい「言い回し」で、ロシア人を納得させることもできないであろう。 追い込まれたプーチンの苦しい立場をよく反映した「処置」である、と私は考える。
２０２２年 ９月
９月３０日
☆ お隣の中国との付き合い方
今朝の朝日新聞オピニオン面に、徳地立人へのインタビュー記事「国交正常化50年に望む」が載っていて、それなりに面白く読んだ。 徳地は1952年生まれ。 大和証券から2020年に中国の国有証券会社・中信証券へ行き、15年まで同証券の董事総経理を努めた人物とのこと。
徳地の見解はその経歴からにじんでくる識見があって面白いが、全体として言わんとするところがはっきりつかめなかった。 そこで改めて現在の「中国」について考えてみる。
中国は国家主権が国民にではなく、中国共産党にある。 つまり、中国共産党の権威は絶対であって、国民は党の指導に従うべき存在である。 従って、ライバルを蹴落として党を握った習近平国家主席は、中国の専制君主となった。
隣に「大国主義」の中国を持って、日本の執るべき道は、毅然として民主主義を守ることが第一である。 そして香港や新疆ウイグル地区に関して、人権や民主などの普遍的価値を高く掲げる。 「民主」を認めることは、現在の中国としてはその一党独裁理念の根拠を失うことになるので受け入れは難しかろうが、日本は主張だけは断固貫かねばならない。
台湾問題では、まずは台湾住民の意思の貫徹を支持する。 中国も自国の統治体制に自信があるならば、台湾住民が自発的に本土と一体になるかどうかを問う中立・公正な住民投票を求めるであろうが、恐らく中国はそうはしないだろう、と私は考える。
９月２９日
☆ 中国の「大人」と「小人」
日本と中国の国交正常化から今日で50年を迎える。 冷戦の最中、日本は中華人民共和国との「復交」と、台湾の中華民国との｢断交」に踏み切った。 ニクソン米政権の対中政策の軟化を受けた、戦略的決断だった。
中国共産党は国共内戦に勝利して大陸を支配し、発展を続けている。 その蔭には中国（中華人民共和国）の初代首相になり、1976年に死去するまで27年間、その地位にあった周恩来の存在が大きい。 詩人肌で理想主義者の毛沢東に忠実ではあったが、その暴走を食い止める「大人」の態度を貫いた。 毛沢東の「理想」追求によって引き起こされた破滅的な「文化大革命」の発生は止められなかったが、それによる破壊を最小限に抑えた。
また、中国のもう一人の「大人」は鄧小平である。 鄭は共産党一党独裁を擁護して、天安門事件では民主化運動を弾圧・鎮圧したが、大国志向ではなかった。 1978年に来日したときには『中国が将来、強大になっても決して覇権は唱えない』と語った。
それに引き替え、現在の習近平国家主席は「小人（子ども）」じみている。特に、自分を毛沢東、鄧小平にならぶ「領袖」と認めさせよう、とするなど、人物の小ささを露呈する。 習近平は『中華民族の偉大なる復興』を繰り返す。 「反腐敗闘争」などを利用して目障りなライバルを蹴落とすことに成功し、党の最高権力者に上り詰めたが、最高指導者がこの「小人」ぶりでは、中国の威信をこれ以上高めることは難しかろう、と私は考える。
９月２８日
☆ 岸田文雄首相の頼りなさ
今朝の朝日新聞オピニオン面「多事奏論」欄に、高橋純子編集委員が「国葬と岸田首相 実に怖い 剣が峰で気概なし」を書いていて、とても面白く読んだ。
自民党の二階俊博元幹事長は岸田文雄内閣の支持率低下を受けて『安全運転だけではダメだ』と注文をつけたそうだけど、岸田首相はそもそも「安全運転」だったろうか、と高橋はいう。
確かにスピードはまったく出ていない。 だが、ふらふらと右に寄ったり左に寄ったり、ウインカーを出しつつ直進を続けたり、『なんでいま？』というタイミングでアクセルを、『どうしてここで？』な場所でブレーキを踏んだりする。 周りが見えていないのか、はなから見ちゃいないのか、状況と動作がかみあっておらず、何をしたいのか意向がさっぱり見えない。
これは実に地味にこわい、と高橋はいう。 猛スピードで周囲を威圧し、およそブレーキを踏むことがなかった安部晋三内閣の「暴走運転」に勝るとも劣らない怖さである。 要するに首相はドライビングセンスがない。 つまり政治センスがない。 ああ、身も蓋もない、と高橋はいう。 面白い。
確かに岸田首相には芯となる理念・信念がない。 要するに一国の宰相の器ではない、と私は考える。 それにつけても、安部晋三の「残像」をいまだに振り払えない岸田政権と自民党のどん詰まりぶりはかなり深刻だ、と高橋は断定する。 共感するところ大である。
９月２７日
☆ 安倍元首相の国葬と憲法
今朝の朝日新聞は５面に「憲法を考える」として、「安倍元首相の国葬と民主主義」との見出しの記事を載せていて、面白く読んだ。
安部晋三元首相の国葬が今日、実施される。 法的根拠はあるのか、弔意の強制で思想・良心の自由は侵されないのか、安倍元首相を特別扱いする理由は何か・・・。 国論を二分し、様々な論点が議論されてきたが、憲法というレンズを通して改めて問題を考えた、というのが記事の趣旨である。
安倍元首相の国葬には、憲法という視点から眺めてもいくつもの疑問点がある。 その最たるものは、思想・良心の自由との関係であると私は考える。 憲法19条は『思想及び良心の自由は、これを侵してはならない』と規定する。 岸田文雄首相は『国葬は故人に対する敬意と弔意を国全体として表わす』と説明する。 その一方で『国民一人一人に弔意の表明を強制するものではない』から思想・良心の自由を侵すものではない、と言う。 だが「国全体」と「国民一人一人」とは一体全体、どういう関係にあるのだろうか。 各地の弁護士会からは『国民に対して特定の個人に対する弔意を事実上強制する契機をはらむ』（東京弁護士会）などとして、国葬に反対する声明が相次いで出された。
今回の「国葬」については、世論調査でも反対が賛成を大きく上回る（例えば一昨日の「つぶやき」参照）。 そのような世間の評価の中でも、岸田首相は自民党内保守派へのアピールを優先させて「国葬」を強行したが、国民の観点でみると愚の骨頂である、と私は考える。
９月２６日
☆ ロシアへの「編入」の住民投票
ウクライナ東部、南部の親ロシア派勢力は23日に、ロシア占領地で「ロシアへの編入」を問う住民投票を開始し、27日まで続ける。 ロシアは賛成多数を前提に、ウクライナ領土の併合を宣言する構えだという。 だが、この話には不可解な点が多数ある。 そもそも占領下で、併合したいと考えていり占領国への「編入」の可否を問う住民投票が「中立・公正」に行なわれるわけがない。 そして、もう一つは「編入地域」をどう決めるか、の問題である。
投票が行なわれているのは、東部ルハンスク州とドネツク州、南部ヘルソン州、中南部ザポリージャ州南部の占領地。 だが、ロシアは「編入」する地域をどう表現する積りなのだろうか。 州単位でないことは明らかである。 ルハンスク州はほぼ全域を占領しているので、同州を「編入」することは可能だろうが、隣のドネツク州が占領しているのは高々、州面積の半分程度である。 それではとても州全体の編入は無理だが、区割りどうする気なのだろうか。 同州では前線でウクライナ軍と戦闘が続いており、しかもウクライナ軍が押し気味で、「奪還地域」を増やしつつある。
ロシアは30日にも「併合」を宣言する構えのようだが、「併合地域」をどう書くのか、私は興味を持って見ている。
９月２５日
☆ 安倍元首相の国葬
安倍晋三元首相の国葬が明後27日午後２時から、日本武道館で執り行なわれる。 今朝の朝日新聞は３面に「首相 それでも国葬」の見出しで、関連記事を載せていて面白く読んだ。
報道各社の世論調査では国葬の賛否は反対が賛成を上回り、法的根拠や費用への批判や疑問はなお根強い。 それでも岸田文雄首相は、安倍元首相の功績や各国からの弔意に応えることなどを理由に予定通り、開催に踏み切る。
首相は22日に米ニューヨークで行なった記者会見で、『一連の国葬議行事が、敬意と弔意に満ち、各国への礼節を尽くし、我が国への信頼を高めるよう、全力を尽くしていきたい』と語った。 だが、世論の理解は広がっていない。 朝日新聞社が10、11の両日に行なった世論調査（電話）では、国葬の賛否は８月の「賛成41％・反対50％」から、９月の「賛成38％・反対56％」と反対が増加している。 首相は８月20日の記者会見で『弔意を国全体として表わす』と述べたが、ほど遠いのが現状である。
私も安倍元首相の国葬に反対である。 だが、自主性に乏しい岸田首相が、国葬開催を乗りかかった舟で降りられない、としている現在、それを言っても何の験しもないだろう、と私は考える。
９月２４日
☆ 西九州新幹線開業
今朝の朝日新聞は一面中ほどで、佐賀県武雄温泉駅と長崎駅を結ぶ西九州新幹線が23日に開業したことを報じ、4面にその解説を載せ、社説でも取り上げていた。
西九州新幹線は異例ずくめでる。 その最たるものは、その区間が武雄温泉と長崎の間だけで、他の新幹線網と繋がっていないことである。 そのため、博多から長崎への移動時間は最速１時間20分で、約30分の短縮にとどまる。
そもそも日本の新幹線で本当に存在意義のあるのは、仙台（あるいは盛岡）から東京、名古屋、大阪を通って博多（福岡）までを結ぶ、東北、東海道、山陽の各新幹線だけである、と私は考える。 あるいは田中角栄の「我田引鉄」の産物である上越新幹線も表日本（太平洋岸）と裏日本（日本海岸）を結ぶものとしてその意義を認めてもよいかも知れない。 これらは旧国鉄などが自前で建設したものである。 しかし、田中角栄の列島改造論によって整備新幹線とされた、盛岡以北の東北、北海道（札幌まで）、北陸、九州、西九州の各新幹線に存在意義はない、と私は考える。
整備新幹線の建設と保有は国土交通省所管の独立行政法人「鉄道建設・運輸設備支援機構」が行ない、JR各社は機構に貸付料（設備使用料）を払って運用する。 全体の建設費から貸付料を除き、残りの３分の２を国が、3分の１を自治体が出す。 九州新幹線の博多・鹿児島中央は建設費１兆5千億円で、貸付料は年288億円で30年間払い、その支払総額は3060億円である。 貸付料は、その区間の実質的な収益力を示すものともいえ、収益力が高まりにくい区間を建設すると、国や自治体が税金で払う分が増え、国民負担として跳ね返ってくる。
国は武雄温泉から九州新幹線の新鳥栖までの約50キロを早期に整備したい方針だが、地元の佐賀県は建設費の負担や、整備されれば県内の並行在来線が不便になる恐れもあって、同意していない。 また、JR九州も西九州新幹線の建設が自前事業であったら、着工しなかったであろう。 とにかく、整備新幹線の整備にはおかしなことが一杯ある、と私は考える。
９月２３日
☆ 死刑の存廃論議
今朝の朝日新聞オピニオン面に、刑法学者、井田良・中央大学教授へのインタビュー記事「刑罰は何のために」が載っていて、面白く読んだ。
死刑の存廃論議は、双方の意見がかみあうことなく、長く膠着状態に陥っている。 井田は「刑罰は何のためにあるのか」を問い直すことから始めるべきだ、という。 井田によれば、刑罰の本質は、犯罪のもたらす害に対応するところにある。 犯罪のもたらす害とは、例えば『人を殺してはならない』という社会的ルールの信頼性を傷つけることである。 傷つけられた信頼性を回復するために、犯人に刑罰という苦痛を与える｡ 社会公共の利益のために犯人に不利益を加えるもので、公益のために私益を犠牲にするものである。
確かに、社会ルールという公益の保護のために刑罰制度は存在する、という考え方は魅力的である。 伝統的には犯罪の重さに見合った刑罰を犯人に課する応報刑の考え方が採られ、死刑制度を支えてきた。 だが井田はそれは妥当ではないという。
結局のところ、井田によれば、死刑存廃論議の行方を決するのは、➀刑罰は何のためにあるのか、と、②誤審の可能性をどう考えるのか、という２点に帰着する。 そして、『人を殺してはならない』という社会的ルールを守るために犯人を死刑にする、というのもおかしな話である。 私はかってのつぶやきで述べたように、死刑制度は廃止すべきである、と考える。
９月２２日
☆ 追い込まれたプーチン
今朝の朝日新聞は１面トップに「ロシア、予備役30万人召集へ」の見出しの記事を載せ、３面にその背景の解説を載せていて、面白く読んだ。
ウクライナ侵攻をめぐってロシアのプーチン大統領は21日、国民向けテレビ演説で「部分的な動員令」を発動し、軍務経験のある予備兵の市民を召集することを明らかにした。 さらにウクライナ東部、南部の親ロシア派が「ロシアへの編入」を求めて実施する住民投票を支持すると表明し、ウクライナ領土である占領地の一方的な併合を示唆した。 ロシアのショイグ国防相は21日、予備兵は約2500万人に上るとし、新たに召集される予備兵はそのうち約30万人だと述べた。
この動員の背景にあるのは戦況の苦境である。 兵力不足で北東部で多くの占領地を失うなか、方向転換に迫られた。 プーチンはこれまで、侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、職業軍人だけで戦う限定的な作戦だと国民に印象づけてきた。 世論調査で７割超が侵攻を支持する一方、作戦続行を望む人と停戦交渉を望む人は40％台で並ぶ。 国民一人ひとりは戦争に巻き込まれることを望んでおらず、政治的なリスクを避ける必要があった。 その状況を変えるために見出したのが、親ロシア派が望んでいた、占領地のロシア併合である。 つまり、一気に領土併合に踏み切ることで占領地を「ロシアの領土」だと主張し、支配地に住む住民を国民と見なすことで『祖国が攻撃されている』と国民に危機感を訴える狙いである。
しかし、これは如何にも無理な理屈づけで、欧米はもちろん、それ以外の中国やインドなどの国も、国際法を無視した領土併合には距離をとるものと見られる。 まさに「追い込まれたプーチン」の感が強い、と私は考える。
９月２１日
☆ 日銀の国債買い支え
今朝の朝日新聞は３面で、日銀の国債保有が５割に迫ったことを報じ、経済面に「国債買い支え リスクも膨張」との見出しの記事を載せていて、面白く読んだ。
日本銀行が20日公表した資金循環統計（速報）によると、日銀が保有する国債（国庫短期証券を除く）の割合は６月末時点で過去最高の49.6％となった。 金額でいうと、国際発行残高1065兆円のうち、日銀保有分は過去最高の528兆円である。 金利を低く抑えるため国債を大量に買い入れているためである。 政府の借金である国債の約半分を日銀が保有する異例の事態になっている。
日銀の国債の保有割合が高まったきっかけはアベノミクスである。 2012年末の保有割合は約11%だったが、13年春に黒田東彦総裁の下で大規模な金融緩和を打ち出して以降、この10年で一気に割合が高まった。 この間、日本の国債残高も右肩上がりで膨らみ続け、2021年末は約１千兆円。 地方自治体も合わせた長期債務残高は国内総生産（GDP)比250%超で世界最高最高水準である。 財政赤字の大部分を日銀が事実上、穴埋めしている構図で、政府の資金調達を中央銀行が支える「財政ファイナンス」との指摘もある。
識者も言うとおり、保有割合が５割を超えることは如何にも不健全である。 だが、異次元金融緩和を言い出した黒田日銀総裁は、９年経ったこの期に及んでも、出口戦略を示すことすらできないでいる。 あと１年の総裁任期終了までこの状況がそのまま続くのであろうか、と私は危惧している。
９月２０日
☆ 立憲君主制における君主の役割
今朝の朝日新聞は１面左肩部から２面にかけて、19日にウエストミンスター寺院で行なわれた英エリザベス女王の国葬について報道し、関連して２面左肩部に社会学者・大澤真幸の考論「英王室 無意識の存在感」を載せていて、面白く読んだ。
王とは近代社会以前の名残である。 19世紀頃、人々に国民感情が芽生えてからは国民と水と油のような関係になった。 『国民は皆平等』と言う意識を伴うためで、フランスでは革命が起きて王室は捨てられた。 英国では王室は生き残り、国民との新たな関係を模索することになった。
そんな王の新たな役割で一番説得力のある説明をしているのが、ドイツの哲学者ヘーゲルである。 王のしているのは、アルファベットの「i」の点を打つようなことだという。 近代市民社会では、王ではなく選挙で選ばれた代表者が議会などで物事を決める。 そして最後に王が『それは国民の意思である』と承認する。 「国民の意思」はフィクションだが、王が認めることで「力の均衡による決定」が「人間的な意思」に転換される。 女王がトラス新首相を任命したのもその例で、それが最後に「i」の「点」を打って完成させるという役割である。
なるほど、面白い解釈で、立憲君主制のもとの君主の役割をよく表現している。 ただ、英国を始めとする欧州の数ある王室はせいぜい数百年の伝統を持つ。 それに対し、日本の皇室は千数百年の伝統を持ち、その多くの時期を政治的力のない「権威」として存在してきた。 今の皇室の「象徴」はまさにこの伝統に適合する。 これからも「文化」として守っていきたい、と私は考える。
９月１９日
☆ 原子力規制の独立性
今朝の朝日新聞の１面トップから２面にかけて、「規制委10年 問われる独立性」との見出しの記事が載っていて、面白く読んだ。
このところ、政府・与党や産業界は原発の再稼働などの推進に力を入れている。 岸田文雄首相は先日の或る会議で『原発再稼働に向け、国が全面に立って、あらゆる対応をとる。 エネルギー政策の遅滞の解消は急務だ』と述べた。 首相が言及した再稼働させる原発には、テロ対策の不祥事で原子力規制委員会が再稼働の手続きを止め、追加検査をしている途中の東京電力柏崎刈羽原発なども含まれる。
規制委は10年前、原子力行政の「推進」側の経済産業省から切り離し、独立性の高い「３条委員会」として発足した｡ 原発事故の反省と教訓からである。 ところが、今年2月のロシアによるウクライナ侵攻を契機にしたエネルギー価格の高騰、電力需給の逼迫が政治側の動きを強めた。
一方でまた、規制委の側にも「独立性」を問われる事態が起きつつある。 ７月、規制庁トップ３の、長官、次長、原子力規制技監のポストを、経産省の出身者で初めて独占した。 発足時は長官、次長は警察庁と環境省の出身者が就任、原発を推進してきた経産省以外の出身者が一角を占めていた。
そして近く、発足以来、規制委のメンバーだった更田豊志委員長が退く。 審査では、事業者側の安全に対する態度を問い、厳しく迫ってきた。 規制委の関係者からは『更田さんは規制委を体現してきた人。 続投が自然の流れと思えたが・・・』との声も漏れる。 尤も、後任の山中伸介委員もこれまでの会議では、原則を譲らない姿勢を見せてきた。
『規制の「独立性」を守り続けられるか。 新体制はいきなり正念場を向ける』と結びで記事は言う。 断固として守って欲しい、と私は考える。
９月１８日
☆ 耕さない農業
今朝の朝日新聞GLOBE版の主題は、「耕さない農業」で、面白く読んだ。
米国では、かって西部に入植した白人農民は､作物を植えるため大平原を耕した。 地表が乾燥し、干魃と強風で土壌浸食が進んだ。 1930年代には巨大な土ほこりが黒い雲となって東海岸にまで到達した。 これをきっかけに畑を耕さない運動が起こり、米政府には土壌保護局が作られた。 現在の米農務省（USDA）は、土壌が浸食されるのを抑えて健全になるとして、畑を耕さないことを推奨している。 USDAの報告書（2018年）によると、不耕起農業の占める面積は､小麦45%、大豆40％、綿花18%、トウモロコシ27％。 耕すのを最小限にとどめた場合も含めると、4つの作物を合わせて半分以上にもなる。
カナダと国境を接する米北西部ノースダコタ州の或る農民の農場では、穀物などの商品作物の合間に、土壌を健康に保つため、ヒマワリやササゲなど12種類の被覆作物を育てている。 マメ科植物で被覆すると、肥料なしでも生育に必要な窒素が十分に得られ、発芽抑制物質によって雑草も抑えられる。 加えて害虫の発生や水分の蒸発も防ぐ。 多品種の被覆作物を植えることで、土の中の微生物やミミズなどの動物も元気になり、生物多様性が豊かになって土も健康になる。 作物が育つと、狭い区画に100頭以上の牛を集めて放牧し、１日ごとに移動させる。 牛の排泄物が肥料になって行き渡るのでほかに何もする必要がない。 より多くの二酸化炭素を取り込み、炭素として長く地中にとどめるので気候変動対策にもなる。
確かにいいことずくめで面白い。 土の元気を取り戻そうと、いま世界的に「耕さない農業」が注目されているという。 私も期待する。
９月１７日
☆ 形骸化する国会審議
今朝の朝日新聞オピニオン面に､耕論「形骸化する国会審議」として、３人の識者の論が載っていて面白く読んだ。 ここでは憲法学者の只野雅人・一橋大学教授の論を取り上げる｡ なお、只野の専門は議会制度など統治機構である。
只野がまず取り上げるのは、政府から国会に提出される法案などを閣議決定の前に審査し提出を承認する、自民党の「事前審査」というインフォーマルな慣行である。 与党内部で関係議員による利害調整が行なわれ、与党側は法案提出後、いかに早く法案を通過させるかを目指すことになる。 利害調整が終わっているわけだから､当然、与党側からの発言や修正は邪魔になる。 一方、数に劣る野党側にとっては法案の中身の修正が期待できない以上、法案審議では存在感を発揮できず、国会の日程闘争を中心にひたすら抵抗を試みることになる。 こうして「討議しない国会」が続いてきた。
日本の国会審議は､首相や大臣、政府参考人などに対し、議員が質問する形で進められることが大部分で、議員同士が議論を交わすことはほとんどない。 本会議を見ても､各党が意見を述べるだけの「言いっ放し」の傾向が強く、「討論と説得」は形骸化している。 何より、合意形成のプロセスが国民には見えにくい。 世間の目にさらされた公開の場で合意を形成することが民主主義の基本である。 合意形成が不調に終わっても、様々な立場の相違が社会に示されることに意味がある。 ところが､密室で多数派内で調整が済んでしまえば、国民は判断材料を得ることができなくなる。
さらには、参議院も衆議院と実質的に同じ小選挙区主体の選挙制度のため、与党が多数を占めることが多い。 従って、法案が参議院で修正されて衆議院との間で行き来することがほとんどない。 それでは２院制の意味があまりない。 そのことへの対策として、私は参議院の選挙制度を全国区比例代表制一本に絞り、立候補団体の制限をほぼ全廃することを提案している（例えば｛参議院のあり方」参照）｡ この選挙法によれば、連立与党も議席の過半数をとることは難しく、無党派の市民議員がキャスティング・ボートを握って、討論を活発化することが期待できる。 如何なものだろうか。
９月１６日
☆ 臨時国家召集要求の取扱い
今朝の朝日新聞は社説「臨時国会 不信 断ち切る正念場だ」を載せていて、面白く読んだ。
立憲民主党など野党４党は８月18日、憲法53条に基づき、臨時国会召集の要求書を衆参両院議長に提出した。 旧統一教会について岸田政権の新旧閣僚らに接点が相次いで判明しており、国会審議で政府を追及する必要があると判断した。 要求してから１カ月近く経った今、まだ召集されていない。 岸田首相は昨日、自民党岸田派の会合で『来月にも臨時国会も予定している』と開会時期に言及。 政府・与党は10月3日を軸に調整しているというが、対応があまりに遅すぎる、そして首相の他人事のような言いぶりにも驚く、と社説はいう。
現行憲法53条では、「内閣は､国会の臨時会の召集を決定することができる」とした上で、「（衆参）いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」と規定する。 だが要求から召集までの日数についての規定がないので、しばしば引き延ばされる。 第２次安倍晋三内閣では90日間経て召集して召集当日に衆議院を解散し、開会された上で審議される国会が実質的に召集されたのは要求から123日後の第191回国会になった。
ところで、平成24年に決定された自民党の日本国憲法改正草案では、53条で「要求があった日から20日以内に召集しなければならない」としている。 そのように草案で書くのなら現行憲法のもとでもそれを実行すればよさそうなものだが、それを45日も引き延ばすのは、国会での議論はなるべくしないで済ませたいという自民党の体質の発露であろう、と私は考える。
９月１５日
☆ ロシア地方議会議員の声明
今朝の朝日新聞「天声人語」欄に、ロシアの地方議会議員の声明の話が載っていて､面白く読んだ。
ロシアでもどの国でも、地方議会議員の言動が国際ニュースになることはあまりない。 しかし、モスクワやサンクトペテルブルグなどの数十人の議員が出した短い声明は、すぐに世界に広がった。 それは『プーチン氏の行動はロシアとその国民の将来に損害を与えると我々は考える。 大統領の職を辞するよう要求する』というものである。 ウクライナ侵攻の責任を公然と問う内容であり､世に出すのは勇気が要ったことだろう、と天声人語子はいう。
動きが地方議員にとどまる限り、プーチン大統領にとっては蚊に刺された程度かもしれない。 しかし、戦場ではロシア軍の後退が目立っており、それが大統領への失望につながっているとも言われている。 『あらゆるところからプレッシャーをかけなければいないない』と声明に名を連ねた議員は米紙に語っていた。 『今は小さな点に過ぎない圧力もやがて面になる。 そんな日はいつか』で天声人語子は話を結ぶ。
この話は、「言論の自由」などの民主主義的価値が、プーチンによってすっかり押し潰されたしまったように見えるロシアでも、しぶとく生き残っていることを示すものである。 ウクライナで戦争を終わらせる捷経は、ウクライナ軍がロシア軍を押し続けることである、と私は考える。
９月１４日
☆ 官僚の不人気
今朝の朝日新聞は社説「官僚の不人気 視野広げ分析と対応を」を載せていて､面白く読んだ。
国家公務員の志望者が減っている。 中央官庁の幹部候補となる国家公務員総合職の試験の申込数は21年度まで５年減り続け、12年度より3割も減った。 政府は､働き方改革や採用試験の見直しで人気回復を図るという｡ だが、政治との関係の歪みも官僚の仕事の魅力を失わせ、不人気を招いているのではないか、と社説はいう。
戦後復興期などと違い、もはや一部のエリート官僚が日本を引っ張る時代ではない。 とは言え､人事行政を担う第三者機関であるはずの人事院が示す分析と対策は物足りない。 人事院は、就職活動を終えた学生への昨秋のアンケートをもとに､希望者減は『試験準備に対する負担感や勤務環境に対する負のイメージが強く影響した』と分析した。 しかし、その調査では『業務内容に魅力を感じなかった』との回答が、長時間勤務への不安を上回っていた。
もともと、高級官僚の仕事の魅力の最大のものは、日本国の運営に携わるという使命感・高揚感である。 だが、中央官庁の仕事を大きく変えた「官邸主導」は、個々の現場での官僚の専門知を軽視し、率直に意見具申ができない弊害を招いた。 今の官僚は国民生活に直接関与せず、大臣の国会答弁の原稿作りなどで忙殺されている。 これでは官僚志望者が減るのは当然である。
官僚は政治家の下僕ではなく､政治家と並んで車の両輪をなすべき存在である。 すべからく、官僚が誇りを持ち、仕事にやりがいを感じることができるように、制度・環境を改革・構築すべきである、と私は考える。
９月１３日
☆ ウクライナ戦局の新展開
今朝の朝日新聞３面左肩部に、「ウクライナ、奪還次々」の見出しの記事が載っていて、面白く読んだ。
ウクライナに侵攻するロシア軍が､北東部の重要拠点イジュームからの撤退を余儀なくされた。 膠着状態が続いてきた東部状況に変化の兆しが生まれている。
ウクライナ北東部ハルキウ州での作戦は突然始まった。 州東部のロシア軍陣地への攻撃を開始したのが今月６日。 ８日にゼレンスキー大統領がイジュームの北東約40キロにある町の奪還を発表。 10日にはクピャンスクの奪還が報じられた。 ロシア国防省はその直後、『ドンパス（ウクライナ東部）解放のため軍を再編する』として、州南東部のイジュームからの撤退を発表した。
イジュームは攻防の続く東部ドネツク州に近い。 ロシア軍が３月半ばに占領し、ドネツク州のウクライナ軍への攻撃拠点としてきた。 失ったクピャンスクはそのイジュームに物資、人員を運ぶ補給基地だった。 イジュームには州都ハルキウからの幹線道路が走っている。 ロシア軍は攻撃拠点を失うと同時に、ウクライナ軍に重要な補給路を提供する形になった。 そして州都ハルキウの北のロシア国境に近い町の支配権もウクライナ側に移ったとみられる。 ロシア軍のハルキウ州内の陣地は州東部を流れるオスキル川東岸の狭い地域に押し込められた模様である。
ロシア国防省は今回の撤退を表向き「部隊の再編」とする。 国内のメディアはハルキウ州の占領地から軍が次々撤退に追い込まれている状況を伝えていない。 プーチン政権は、今まで『勝った､勝った』と国民に言い続けてきただけに、実情が国民に知られると「反戦機運」が盛り上がるかもしれないことを恐れているのであろう、と私は考える。
９月１２日
☆ 沖縄知事選で玉城デニー再選
休刊日で朝刊が休みの､今夕の朝日新聞昨夕刊は、昨11日投開票された沖縄知事選で現職の玉城デニーが再選されたことを報じていた。 米軍普天間基地の辺野古移転の是非が最大の争点で、玉城は『新基地建設を止める』と主張。 前回、前々回の知事選同様、自公政権に移設ノーの民意を突きつける結果となった。
こうした沖縄県知事選挙の結果に対し､松野博一官房長官は12日午前の記者会見で『沖縄県が抱える様々な問題に巡る県民のご判断であり、政府としてコメントすることは控える』と話した。 そして米軍普天間基地の辺野古移設については、『日米同盟の抑止力の維持と米軍普天間飛行場の危険性の除去を考え合わせた時、辺野古移設が唯一の解決策だ』と改めて強調した。
こうした政府の態度に､私は疑問を持っている。 少なくとも今の自公政権は、辺野古移設問題については思考停止の状態にあり、真剣に米国と交渉しようという気配はない。 米国海兵隊基地の狭い沖縄への集中については、戦略的見地から米軍内にも議論があるという。 辺野古移設が決定されてから20年以上経った今、米国側と海兵隊の沖縄駐留の妥当性・必要性を含めて、広く戦略の全体像を、少なくとも一度は話し合って見るべきではないか、と私は考える。
９月１１日
☆ 宗教と政治
今朝の朝日新聞「日曜に想う」欄に、郷富佐子・編集委員の「ゴルバチョフ氏 33年前の高揚」が載っていて､面白く読んだ。
1989年12月１日、ゴルバチョフ共産党書記長はローマ教皇ヨハネ・パウロ２世をバチカンに訪ね､初会談を行なった。 その日はベルリンの壁が崩壊してから１カ月もたっておらず、米ソが東西冷戦の終結を宣言したマルタ会談の前日だった。 ポーランド出身の教皇は会談の冒頭でゴルバチョフにロシア語で『スラブ人同士の会合だ』と語りかけ、ペレストロイカの名で進める改革を高く評価した。 そして信仰の自由を認める「宗教法」をつくるよう繰り返し求めた。 会談に同席した元上智大学長・故ピタウ大司教は『あの日のゴルバチョフは傍目にもわかるほど高揚していた。 とても雄弁で、ナイーブとも言えるほど純粋な印象を受けた』と語る。
当時のソ連の共産主義は一種の宗教であった。 だから『宗教はアヘンだ』として、既存の宗教を敵視・弾圧してきた。 ゴルバチョフが改革で議会制民主主義と市場経済への移行を目指すことで共産主義の宗教姓が薄れ、他宗教を認める余裕が生まれた、と私は考える。
宗教は心の安定の基盤として、地球人の幸せのために必要な存在である。 だが、イスラム原理主義のように､政治の上に君臨する宗教は有害無益である、と私は考える。
９月１０日
☆ 大文明と小さな文化
今朝の朝日新聞読書面「ひもとく」欄に載っていた､田中克彦・一橋大學名誉教授（言語学）の「大文明と小さな文化」を面白く読んだ。
そこで田中はまず、アントワーヌ・メイエ＜著＞の「ヨーロッパの言語」（1928年刊）を紹介する。 メイエはフランスを代表する言語学者で、その本は､1917年のロシア革命がヨーロッパの言語にいかなる変化をもたらしたかを論じたものである。
その本でメイエは『小ロシア語はロシア語の土語にすぎず、それを国語にすることは農民の方言を都市住民におしつけるもので、つまりは文明を引き下げることである』という。 ここにいう「小ロシア語」とはウクライナ語のことで、革命前のロシアではウクライナは小ロシアと呼ばれていた。 メイエはまず、フランス語がロシアの貴族社会から追い出され、それまで全く世に知られなかった､小さな「未開で野蛮な」諸民族の言葉が文字を与えられて公用語となり、既存の文明語を追い出していくのを苦々しい思いで眺めていた。 大文明は小さな文化を吸収し同化して、ヨーロッパ文明の統一を図るべきだとの考えがメイエにはあったからである。 メイエにとってはフランス語は大文明の象徴で、遅れたロシア社会でも文明的に進んだ貴族は当然、フランス語を使うべきだった。
それから100年後の現在、プーチン大統領の念頭には､小ロシアのウクライナは、大ロシアに同化して一体になるべきことが当然のこととしてあったに違いない、と田中はいう。 とすれば、ウクライナ侵攻は当然のことである。 なるほどな、と私は肯く。
９月 ９日
☆ エリザベス英女王死去
今夕の朝日新聞夕刊は１面トップに、英国のエリザベス女王が８日死去したことを報じていた。 享年96歳。 在位は70年で、英国王で歴代最長とのこと。
英王室が８日『女王が本日午後､バルモラル城で安らかに亡くなりました』と発表。 バルモラル城は北部スコットランドにある女王の静養先だった。 女王は６日、そこでトラス首相と面会、前日に保守党党首に選ばれたトラスを新首相に任命したばかりだった。 ただ７日に予定していた公務は「医師の助言」に基づき取りやめていた、という。
女王は1926年、後にジョージ６世となるヨーク公の長女として、ロンドンで生まれた。 47年、13歳の時の初恋の相手といわれるギリシャの王子、フィリップ殿下と結婚、３男１女をもうけた。 52年、父の急逝を受け、25歳で即位して､エリザベス２世となる。 以来、日本を含む130カ国以上を公式訪問して､積極的な王室外交を展開した。
エリザベス女王で興味があるのは、96歳に高齢で、亡くなる２日前まで笑顔で公務を果たしていた、ということである。 日本の天皇は伝統の宮中行事も多いが、英国国王の公務負担はそれに比べて少ないのであろうか。 日本では「上皇」という地位が昔からあるので、満75歳くらいを定年として退位する慣例を打ち立てるのがよい、と私は考える(かってのつぶやき参照)。
とにかくこれで一時代が終わったように感じる。 女王の後を継いで新国王になったチャールズ皇太子は即位してチャールズ３世を名乗るが、彼がエリザベス女王が切り開いた､開かれた王室をさらに推し進め、英国の栄光を支えることができるかどうか、私は見守る所存である。
９月 ８日
☆ 使用済み核燃料再処理工場の建設工事
今朝の朝日新聞は経済面に、青森県六ヶ所村にある使用済み核燃料再処理工場の完成時期について、日本原電は７日、県と村に対し､予定していた2022年上期から延期すると報告した、と報じた。 延期は26回目。 新たな完成時期は、原子力規制委員会の審査の長期化により現時点では示せないとし、審査状況などを見極めたうえで『年内にも公表する』とした。
再処理工場建設は1993年の着工以来、トラブルが相次いでいる。 延期を繰り返した結果、建設費は当初の7600億円から2.1兆円に拡大し、稼働後40年間の運営費や操業終了後の廃止費用を含めた総事業費は約14.4兆円としている。 原燃の増田社長は会見で、事業費がさらに増える可能性を示唆し、『原子力の発電コストが高くなると、原子力が日本の中で選択されなくなる』と危機感をあらわにした。
使用済み核燃料の再処理は、将来のウラン資源の枯渇に備えて、既存の資源をできるだけ長持ちさせるためのものである。 世界的に再生可能エネルギーだけでエネルギー需要をまかなう趨勢になり、脱原発が進んでいる現在、使用済み核燃料を再処理する「核燃料サイクル政策」の意義はすでになくなっている。 この期に及んでなお使用済み核燃料の再処理などというのは、時代錯誤も甚だしい、と私は考える。 すでに合理性を失っている政策の見直しができないのは、責任の所在がはっきりせず、誰も責任を取りたくないため、と私は考えるが、如何なるものだろうか。
９月 ７日
☆ ゴルバチョフの総括
今夕の朝日新聞夕刊に塩川伸明・東京大学名誉教授（ロシア政治史、比較政治）の寄稿、「ゴルバチョフ氏 言葉の力を信じ」が載っていて、面白く読んだ。
歴史上の重要人物の常として､ゴルバチョフの評価には極度に高いものから低いものまで､大きな幅がある。 ソ連の民主化と世界の平和に尽力した偉人、何の展望もなしに思いつき的な「改革」を進めて国の混乱を拡大した大馬鹿者、決断力を欠き、右往左往しているうちに政敵に排除されてしまった弱い政治家、その他その他である。
彼がソ連共産党書記長に選出された1985年３月の時点では､その後の大変動を予期していた人は皆無だった。 彼自身、当初想定していたのは、体制の抜本的な変革ではなく、限定的な体制内改革だった。 そのようにして出発した「ペレストロイカ」は､言論自由化の影響もあって時間とともにエスカレートし、ある時期以降は事実上全面的な体制転換を視野に入れるようになった。 彼の一つの特徴は、言論自由化に伴う改革構想のエスカレートを抑止しようとせず、むしろ自らをそれに適応しとうと努めた点にあった、と塩川はいう。
彼がそういう態度をとった一つの要因として、彼が言葉の力を信じるタイプの人間だったということが挙げられる。 そのことは内外知識人たちの間に大きな反響を呼び、理想主義的な観点からの期待を広めた｡ 結果的に「言葉ばかりが多すぎて、実力の伴わない弱い政治家」という評判をとること至ったとしても、とにかくそれが彼のスタイルだった、と塩川はいう。
こうした塩川の総括・評価は人を肯かせるものを持っている。 それにしても彼には地球国家につながる理念があり、その理想主義を大いに尊重しなければならない、と私は考える。
９月 ６日
☆ 政治と宗教
今朝の朝日新聞オピニオン面に、耕論「「政治と宗教」その一線」として３人の識者の論が載っていて、面白く読んだ。
このところ、旧統一教会と政治家の関係が連日報じられ、「政治と宗教」に注目が集まっている。 その辺の考え方を一度整理しておくことは無駄ではなかろう。 その意味で、宗教社会学者の塚田穂高の解説を特に面白く読んだ。
日本における政教分離とは、あくまで国、自治体などの公的機関が､特定の宗教に肩入れしたり便宜を図ったりすることが禁じられており、その主語は「国」などである。 主語が「宗教」の場合は､憲法制定から今日まで、『宗教団体の政治活動は排除しない』という国の見解が踏襲されている。 宗教がその理想実現のために政治に関わることは自由、という訳である。 ここまでははっきりしている。
だが､主語が「政治家」の場合は、関わりの全面禁止ではないが、線引きが難しい。 まず、明治神宮や浅草観音にお参りしてお賽銭をあげることを問題にする人はいないだろう。 一方で、靖国神社に参拝して玉串料を私費で納めるなど、「私人」としてという建前になっていて、政教分離には一応反しないが、外交上の問題がある。
旧統一教会に関しては、こうした「宗教と政治」をめぐる議論とは別次元の話である。 政治家と反社会的集団や詐欺集団と付き合ってはいけないように、「霊感商法」や強要的な高額献金で甚大な被害を生んだ団体との付き合いは避けるべきだった、と塚田はいう。
こうした塚田の論考は一応納得できるもので、私にも異論はない。
９月 ５日
☆ 東京五輪をめぐる汚職
今朝の朝日新聞は１面トップに、東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件で、大会組織委員会の元理事・高橋治之容疑者＝受託収賄容疑で逮捕＝が、広告大手「大広」（大阪市）が大会スポンサーの獲得業務の一部を担う協力店に選ばれるよう働きかけた疑いがあることが､関係者への取材で分かった、と報じていた。 大広から元理事の知人のコンサルタント会社に約1400万円が支払われていた、という。 東京地検特捜部は元理事への賄賂にあたる可能性があるとみて、大広の担当者から事情を聴くなどして捜査中である。
高橋元理事の東京五輪のスポンサー選定に絡んだ収賄事件は、紳士服大手「AOKIホールディングス」、出版大手「KADIKAWA」に続き、これで３件目である。 知人のコンサル会社に振り込まれた金額は合計して１億6500万円に上がる。 これは五輪大会をめぐって巨額のカネが動くことの象徴であろう。
とにかく、最近の五輪大会は巨大化し過ぎている。 大会のスポンサー（広告主）になるために数千万円を出しても、それに数倍する利益が得られる五輪大会とは、一体何なのだろうか。 この辺で五輪の商業化に歯止めをかけ、創始当時の近代オリンピックの精神に立ち戻れないならば、一度、五輪を止めてみるのもアリではないか、と私は考える。
９月 ４日
☆ 変わる刑務所
今朝の朝日新聞「グローブ」は「変わる刑務所」と題して､世界各地の刑務所の話を載せていて､面白く呼んだ。
刑務所はかっては冒した罪に罰を与えて懲らしめる所だったが、今は再犯防止に重点を置いた刑務所運営が世界の流れになっている、と浜井浩一・龍谷大学教授（犯罪学）はいう。 日本でも受刑者の更生と再犯防止を目的に、刑罰が115年ぶりに見直された。
2010年にノルウェー南部、ハルデン近郊の森に開設された、殺人や強盗などに手を染めた252人の男性受刑者を収容する刑務所は、「世界一人道的な刑務所」とも「世界一豪華な刑務所」とも呼ばれている。 グローブ編集部の記者が訪れてみると、12平方メートルの部屋にはベッドや机、テレビもあり、一角には専用のシャワーと洗面台、共用のリビングにはテーブルとソファが並ぶ。 『できるだけ「外」と同じ生活ができるようにしている』と、所長のアーレ・フイダルはいう。
ノルウェーの刑罰は「自由を奪う」ことにある。 決められた時間、決められた場所にいなければならない。 午前８時、居室のカギが開けられる。 午前８時半～午後３時は作業や学習。 夕食後が自由時間で、８時半になると居室が施錠される。 奪うのは最小限の自由にとどめ、投票や治療、教育、職業訓練を受ける権利は、塀の中も外も同じ。
なぜそこまでするのか。 答は厚生と社会復帰である。 ノルウェーには死刑も終身刑もない。 量刑も日本などに比べると軽く､凶悪犯も原則、釈放されて社会に戻る。 『ここにいるのは、やがてあなたの隣人なる人だ。 どんな隣人になって欲しいかということだ』とフイダルはいう。 『私たちの仕事は良き隣人を育て、釈放することだ』。
そのほか、イタリアでは刑務所内に、料理人、ウェーターが受刑者であるミシュランガイドのも載るレストランがあり、シンガポールでは出所後の就職に官民あげて支援し、今年１月には刑務所の外で訓練や教育が受けられるよう法改正がされた。
これら受刑者の厚生と再犯防止に重点を移す刑務所の変化を、私は歓迎する。 それにして、日本でも早く死刑を廃止して欲しいものだ、と私は考える。
９月 ３日
☆ 米国民主党の巻き返し
今朝の朝日新聞3面左肩部に、国民の融和を掲げてきたバイデン米大統領が、11月の米中間選挙に向け、トランプ前大統領やその支持者をあえて「敵視」して攻撃する戦略に転じ、与党民主党が巻き返しつつある、という記事が載っていて面白く呼んだ。
バイデンは１日、テレビの「プライムタイム」午後８時から演説し､トランプを名指しして「この国に対する脅威」と断言した。 トランプやその支持者のスローガンである「Make America Great Again]の頭文字をとった「MAGA」は、トランプを批判する立場からは､トランプを信奉する権威主義的な傾向を指す言葉として使われる。 バイデンは『トランプとMAGA勢力は、我が国の根幹を脅かす過激思想」「彼らは恐怖とウソをまき散らしている」と非難。 昨年の議会襲撃事件などの政治的な暴力を容認し、前回大統領選挙の結果を認めない姿勢は民主主義を損ねていると批判した。
トランプにとって、共和党よりもトランプ個人への「忠誠」が熱い「MAGA勢力」は強力な政治的資産である。 議会襲撃事件の調査や、機密文書をめぐる米連邦捜査局（FBI）の捜査が進む中でも、こうした動きをトランプへの「迫害」ととらえ､結束する。 これに対し、民主党のバイデンは、中間選挙を「民主党と過激なMAGA勢力との選択」と位置づけて戦略に転じた。 『共和党員の多くはMAGAではない』とも述べ、穏健な無党派層や共和党支持者の支持を得ようとしている。
中間選挙では、記録的なインフレへの不満が民主党への逆風になると見込まれていた。 だが、最近はトランプの動向などに焦点が移りつつある。 NBCニュースが８月に実施した世論調査では、米国が直面する尤も重要な問題として「民主主義への脅威」を選んだ人が21%でトップに立ち。「生活費」（16%）や「仕事と経済」（14%）を上回った。 バイデンの支持率も７月を境に上昇に転じ､40%台を回復。 或る米紙が１月に報じた世論調査では、投票先の政党として民主党（47%）が共和党（44%）を上回った。
私はこの動向を歓迎し、さらに進んで、中間選挙で民主党が上下両院の安定多数議席を獲得することを期待する。
９月 ２日
☆ ロシアから見たゴルバチョフ
今朝の朝日新聞文化面に、大串敦・慶応義塾大學教授に聞く形の「ゴルバチョフ氏 評価の差から考える」が載っていて､面白く呼んだ。
ゴルバチョフは､冷戦を終わらせたた偉大な指導者とたたえられる一方で、ロシア国内での評価は低い。 欧米諸国から見れば、ゴルバチョフは抑圧的なソ連の体制下にいる人々に自由をもたらした指導者で、「グラスノスチ」と呼ばれる情報公開や言論の自由化に取り組んだ。 しかしロシアからすると超大国ソ連を崩壊させた人物で、「ペレストロイカ」の名で改革を試みたがうまくいかず、経済は落ち込み、社会は混乱して国民の生活は苦しくなった。 冷戦の終わらせ方も西側に譲歩しすぎたと見る人も多い。
1980年代のソ連は明らかに停滞し始めていた。 米国と並ぶ超大国というのは名ばかりだった。 その中でゴルバチョフはソ連を再び超大国にして、米国と対等なパートナー関係を築きたく、そのためには改革が必要だと判断した。 そして共産党と国家を分離し、党が全てのコントロールするのではなく、ある程度、国家官僚や生産現場に任せるシステムを探った。 だが実際は、共産党支配が弱まることで行政システムがめちゃくちゃになった。 統治機構が完全に崩れ、権力の空白が生まれた。 その空白を埋めたのが連邦を構成していた共和国で、結果的にソ連の崩壊に繋がった。
ただ、ソ連が崩壊した後も共和国の統治能力は低く､無政府状態は続いた。 ハイパーインフレが続き、その日食べるものにも困るようになる。 犯罪率が上がり､治安は悪化。 暖房が使えないという期間が長く続いた。 国民にとって悪夢だった、と大串は言う。 これがロシア国内でゴルバチョフの評価が低い理由である。
ゴルバチョフは理想主義者である。 結果が伴ったとは言いにくいが、その思想と実行力は大いに評価すべきである、と私は考える。
９月 １日
☆ ゴルバチョフ元書記長死去
今朝の朝日新聞は１面左肩部に、元ソ連共産党書記長のゴルバチョフが30日に90歳で死去したことを報じ、３面「時時刻刻」に詳しい評価・評伝を載せ、社説など多くの紙面に関連記事を載せていて､面白く呼んだ。
ゴルバチョフは1931年、ソ連内のロシア共和国で生まれ、85年に54歳でソ連共産党の最高指導者・書記長に就任した。 そして、「ペレストロイカ」（立て直し）を掲げて経済、社会の改革を図った。 また、89年には地中海マルタで米ソ首脳会談を開いて冷戦終結を宣言し、90年にノーベル平和賞を受賞した。 そして、91年にソ連が崩壊、ロシア連邦共和国が生まれた。
東西冷戦を終わらせたゴルバチョフをたたえる声は、国際社会で絶えない。 米国のバイデン大統領はゴルバチョフの死去を受け､『異なる未来は可能だと見抜く想像力があり、それを達成するために自らのキャリアをかける勇気を持ったまれな指導者だった』との追悼の声明を出した。 レーガン、サッチャーら強硬な反共主義者と結び付けたのは､『競争ではなく、軍縮や人権保護の共通の利益を追求する』というゴルバチョフの理念だった、と記事はいう。 国連のグレーテス事務総長は追悼声明で「歴史の方向性を変えた唯一無二の政治家」とたたえた。
実際、ゴルバチョフの頭を占めていたのは、ソ連やロシアではなく、全世界、全人類だった、と私は考える。 副島英樹・編集委員は、『彼の思想の柱は、「相互尊重」「対話と協調」、そして「政治思考の非軍事化」だ。 20世紀巨人の遺言は、今世紀も人類の指針になりうる』と言う。 私にも異存はない。
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